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夜天の使い魔39話

 今日も変わらず、日差しは強い。先月の終わりから強まった夏の気配はいよいよその本領を発揮し、大地にあるもの全てに己の威光を焼き付けんと必死になっているようにも思えた。最も、そんな太陽の頑張りは地を行くものにとっては迷惑でしか無い。過剰に熱を与えられた大地も空気も何もかもが熱さを孕んでおり、それは万人を等しく苛んだ。
 そんな天気だから、ルイズは反対したのだ。体力のあるものでも辛い状況の中で歩くのは止した方が良い、と。それでも、カトレアは出かけたいと、可愛い妹と一緒に外へと散策に赴きたいと――普段の彼女からすると強引な位に誘うのだった。
「最近は体の調子も良いから、心配は要らないのよ。それに今日は爽やかな風が吹いてとっても涼しいわ。日当に長く居ないように気をつければきっと大丈夫」
「でも」
「余り床に臥せってばかり居るのも健康に悪いものなの。だから最近は前よりも積極的にこうして出歩く事にしているのよ。いつもしている事なんだから何も心配は要らないわ」
「ちいねえさまがそこまで言うのなら……」
 こうまでしてカトレアが自分の意思を顕わにするのは珍しいし、何より大好きな姉の頼みである。多少の心配を心に残しながらも、最終的にはルイズもそれに同意した。

 大きな日傘に庇護されながら、二人は居城の回りを気ままに歩く。大きな日傘は二人の体を影で隠して尚余裕があり、それなりに重かったが、ルイズはそれを必死に――姉に光の暴力が及ばないように――持とうと頑張っていた。もっと軽いものがあれば良かったのだが、二人一緒に入れる大きさのものはこれしかなかったのだ。おそらく各々が日傘を差すのが一番無難な行動だったのだろうが、姉に余計な負担はかけたくないというのがルイズの考えだったので、こうして無理をしている訳である。決して体力に自信がある訳ではないルイズなので、中々に重労働を強いられる事となったのだが、やせ我慢は大の得意な彼女であったので、「よいしょー」という気合一発の声も心の中に仕舞い込み、表向きは姉と楽しく談笑を重ねていた。
「あなたが帰ってきてからもう三日かしら。早いわね」
「わたしにはまだ三日、って感じ。こんなにゆっくりしたのは久しぶりだから」
「あら、そうなの?」
 ルイズの言葉に、姉は不思議そうに首を傾げる。
「聞いた話だと、学院は休みに入って大分経ってるらしいけれど」
「こちらに帰ってくる直前までちょっとガリアの方に行ってたの」
「友達と旅行かしら? 羨ましいわ」
 そこまで気楽なものじゃなかったけど、と言う言葉をルイズは寸での所で飲み込んだ。例えどのような事情が潜んでいたにせよ、この姉がこういった話に羨望を覚えない訳が無いと彼女は重々に承知していたからだ。

 生来より体が弱いカトレアは、このヴァリエール領から外に出た事など片手の指でも余る程しか無い。比較的体調が落ち着いている頃合に一度旅行に出た事があったのだが、結局その後は体調を著しく損ない大変な事になった。それは本人にとっても大変に辛い事だったと思うのに、それでもカトレアは「またいつか、みんなで旅行に行きたいわね」と弱弱しくも声を弾ませながら言ったのをルイズは覚えている。例え体が苦痛を覚えても、それ以上に楽しかったと、その表情が物語っていた。
 だから判る。この病弱な姉にとって、旅をするというのは何より羨ましい事なのだ。未知の場所、未知の出会い、そういったものに焦がれ焦がれている。なので家に帰って来た時は、ルイズが見聞きした事をなるべく姉に話して聞かせる事にしていた。そしてカトレアも、妹からそういう話を聞くのをとても楽しみにしていた。
 しかし今回のガリアでの旅路での出来事は、話すには色々と憚られる事が多い。話してはいけない事も、聞かせたくは無い事も沢山有り過ぎた。
 だから、今は旅については語らない。語るのは、共に苦楽を潜り抜けてきた二人の話。気ままで騒がしいけれど、いつも自分を助けてくれた隣人の話。そして無口で義理堅いその友人の話。短くない時間を共有した友人たちの話を、ルイズは語る。
 カトレアはそんなルイズの話に時折相槌を打ちながらも、決して言葉を挟まずに真剣に聞き入っているようだった。
 思えばこの二人とも随分と長い付き合いになってるわね、とルイズは語り聞かせる言葉を綴りながらも同時に述懐せずにはいられなかった。去年までの自分は終始一人だった。積極的に他人に関わろうとも思わなかったし、関わってくる者も居なかった。ただゼロという二つ名だけが有名になり、一人歩きをしてはいたが、知名度は上がってもそれが交友関係を広げた事などまったく無い。僅か数ヶ月前までは、学院での彼女は孤独だったのだ。だが今は違う。彼女は友を得た。誰もが人生で為し得る事を達成するのに、ルイズは一年以上もかかったのだ。しかしそれ故に、彼女達は無二とも言える友だった。

「こうやってお友達の話をしてくれるのは初めて」
 友人達の話を聞くカトレアは、とても嬉しそうだった。
「あなたに素敵なお友達が出来て良かった。聞かせてくれるお話がとても楽しそうなのはきっとその所為ね」
「そうかしら? いつもと変わらないような話だと思うけど」
 ルイズにしてみれば半ば誤魔化しに振った話題だ。特に目を引くような変わった出来事を聞かせている訳でも無いので、それを楽しいと言われるのは予想外の事であった。
「これまで聞かせてくれた話は、いかにも聞かせよう、って意識が強いものだった気がするの。楽しかった事、聞かせて楽しいだろうって事を無理矢理探し出して聞かせているような、そんな話だった。でも今のあなたの話はとても自然で、あなたにとってはなんでもないような事なの。それは話しているあなたには大したことが無いように思えるかもしれないけれど、そういう話こそあなたの今の気持ちが現れているの」
 そう言ってカトレアは優しく微笑んだ。
「今がとっても楽しくて、幸せだって」
「うん……そうかも」
 ゼロのルイズ、という名の意味は果てしなく重かった。貴族でありながら魔法が使えないというのは想像以上に枷なのだ。そんな状況で、必死に自分は大丈夫だと言い聞かせながら生きていたのが以前の彼女。そんな状況で話す身の上の話題は、何処か無理があって時によっては痛々しいものだったのかもしれない。
 しかし今は違う。他の誰とも変わらない、貴族としては普通の少女でしかない。だから話す言葉も話題も、ありふれた詰まらないもの。だがそれは、かつての彼女にとって決して手の届かないものだったのだ。


 談笑を重ねながら、色とりどりの季節の花が咲き並ぶ草原を二人は歩いた。日傘で日光を避けてはいるものの、流石に暑い。珠のような汗がじんわりと吹き出て肌を潤し、時折そよぐ微かな風の流れがそれを幾分か和らげてはいるが、そろそろ休憩を取るべきだろう、とルイズは判断した。家を出てからもう一刻近くにもなる。幾ら調子が良いと言っても姉は病人、無闇に体力を損耗させるのは良くない。
 何処か休むのに適した場所は無いかと探すルイズ。視線をきょろきょろと泳がせる彼女の視野に、丁度良く一本の木が目に入った。草原に一人屹立する彼の体躯は堂々としたもので、この開けた場所で自らを誇示するように存在を顕している様は巨木と言って申し分ないものだ。この木の木陰なら十分に日差しを避ける事も可能だろう。
「ちいねえさま、あの木の袂で休みましょう。わたしもう歩き疲れちゃったわ」
 病弱な姉を気遣っての言葉――と格好よく行きたいところだったが、実の所本当にルイズは疲れていた。一人で気ままに歩いているのならともかく、大きな日傘を持ちながらゆっくりと歩くのは想像以上に彼女の体力を奪っていた。まるで体力鍛錬である。なので、小さな少女の体力は既に余力を僅かにしか残していなかった。冗談抜きで休みたい。
 そうしましょう、と頷く姉の顔色もやや血色を欠いている。彼女も彼女でやはり疲れているのだろう。

 二人は大きな木の木陰に辿り着くと、はしたなくもどすん、としりもちをつくように座り込んだ。ルイズは大きな木の幹に寄りかかると、己の肺の気を入れ替えるように深く呼吸を繰り返し、カトレアもその幹に添うように体を預け荒くなった呼吸を整えている。
「二人で歩いているとついつい時間が経つのを忘れちゃうわ」
 まだ呼吸が整わないまま、カトレアが口を開く。
「一人でだったら、こんなに長く歩けないもの。ルイズのお話が楽しいから、ついつい歩きすぎちゃった」
「わたしもちいねえさまとこんなにお話するのは久しぶりだったから……ごめんなさい、もっと気をつければ良かった」
 大丈夫よ、と言ってくれはするものの、ルイズが見た所明らかにカトレアの顔には疲労の色が見える。帰りはこまめに休憩を取りながら戻るようにしなければ、と彼女は反省した。大好きな姉と二人っきりで出かけるのは本当に久しぶりだから少し浮かれすぎてしまった、と。

「ほんのちょっと木陰に入るだけで全然暑さが違うのね。ただ影がある、というだけでは無いんでしょうね」
「きっとこの木がわたし達に気を使って回りから涼しい風を誘ってくれているんだわ。稀な来客に喜んでくれてるのかも」
 傘が作る影よりも木陰の方が涼しいのは、そこに影を作るものの意思があるからなのだろうか、とルイズは漠然と思う。今寄りかかっているこの木だって生きている。生きていて意志がある。だから自分達の為にそう振舞ってくれている、と考えるのは夢を見すぎだろうか。でも――。
 ちちち、と可愛らしい声を立てて小鳥がカトレアの下へとやって来る。彼女が腕を差し出すと、当然と言うかのように彼の小鳥は彼女の細い指を宿り木代わりに止まった。その膝の傍らには何時の間にか小柄な犬が侍るよう傍らに座り込んでいる。他にも色々な動物達が、カトレアの下に集うよに自然に集まってくる。それは、野に訪れた姫に謁見しようと人々が集う様のようであった。
 カトレアは体が弱かったが、しかしその代わり誰にも備わらぬ魅力を宿していた。美しい相貌、それを彩る柔和な微笑みと優雅な立ち振る舞い。それらは男達が目にしたらたちまち虜となる事間違いなしだろう。しかしその力は異性を虜にするばかりでは無い。言葉も交わせぬ動物達をもまた魅了し、惹き付けて止まなかったのだ。幼少の頃より彼女の回りには自然と動物達が集い、彼女を包みこんでいた。彼女の孤独や苦痛を癒そうとするかのように。
 だからもしかしたら、この木もそんな姉の魅力に惹かれ、清涼な空気を贈り物としてくれたのかもしれない、ルイズにはそう思えてしまうのだ。
 動物達と戯れる姉の姿はまるで聖女のようで、動物達が身を寄せたくなるのも納得してしまう。そしてそれは、自分にとっても憧れ目指すべき姿だったが、きっと求めながらも一生この人には及ばないだろうとも思う。ルイズにとって、カトレアは本当に特別な存在だった。
 動物達に囲まれる姉の姿に、ルイズはついつい笑みをこぼしてしまう。カトレアもそんな妹に気付き、言葉を返した。
「とても柔らかく笑うようになったのね、小さなルイズ。お父様達に認めてもらえて、心の痞えが取れたからかしら?」
「……わたしは父さまと母さまが冷たいのは、認めて貰えてないからだとずっと思ってたから。ようやく一人前になれて、父さま達に認めて貰えて、きっと安心したんだと思う。自覚はあんまり無いんだけど」
「今までこの家はあなたにとって安らげる場所ではなかったけれど、やっと本当の意味で自分の家だと実感できるようになったんでしょう」
 確かに、ルイズにとってかつては家に居る事が――自分の生家だと言うのに――とても辛かった。魔法が使えず所謂おちこぼれであったルイズにとっては至極居心地の悪い場所だったのだ。だからと言って他の何処かに行く事も出来ない。傍から見ればまさに箱入り娘のお嬢様、そんな彼女に家を出て行く行動力も無ければその能力も無かった。だからどんなに居心地が悪くても耐えて暮らすしかなかったのだ。そんな中でもカトレアには良く笑顔を見せていたはずだが、その顔はきっと今の自分の顔とは随分と違うのだろう。

 でもね、とカトレアはくすくすと笑う。
「あの時のルイズは前と変わらない、なんだか懐かしい感じがしたわ。あなたが帰って来た日の晩餐の時の」
 それが何のことを指しているのかすぐに思い当たり、ルイズは刹那に顔を真っ赤にしてしまった。
「その、あれは、ちょっとした気の緩みみたいなものなのよ」
 あうあうと必死に弁解しようと彼女は試みるのだが、中々言葉が浮かばないのか手をぶんぶんと振って精一杯否定を体で現しながらも、口から漏れてくるのはあのとかそのとかばかりで具体的なものは何一つ出てこない。
「恥ずかしがらなくて良いのよ、わたしの小さなルイズ。嬉しい時に泣くのは悪い事でも恥ずかしい事でも無いもの。あなたはずっと辛かったり苦しかったりして無く事しか無かったのに、今は喜びで涙が流せるようになった……それはむしろ、喜ぶべき事だわ」
 それでも、恥ずかしいものは恥ずかしい。思い出すつもりも無かったのに、姉の言葉にその時の光景が自然と想起されて、ルイズはさらに顔を赤らめていった。


 涙で顔をぐしゃぐしゃにするルイズを、あらあらとあやすように肩を抱くカトレア。その影では隠れるようにエレオノールが貰い泣きしてハンカチを目に当てていた。気性の激しい彼女は同時に直情的でもあり、意外に涙脆いのだ。
 公爵は表向き涼しい顔をしていたが、良く見ると体は小刻みにぷるぷると振るえ、感極まった事を隠しきれていない様子だった。流石にその場で感情を表す事は無かったが、部屋に帰ってから盛大に泣いた。
 ただ一人、公爵夫人だけはまったく普段と変わりない様子でその光景を見守っている。
「顔を上げなさい」
 その母の言葉で、やっとルイズは涙を拭い始めた。それでも頬には涙の後が残り、目は腫れぼったくとても人に見せられるような顔では無かったが、彼女はしっかりと面を上げ、表情を引き締める。
「良い顔をするようになりましたね、ルイズ」
 場の空気が、再び張り詰めた。
 厳格な母から一体どのような言葉がかけられるのか、ルイズは内心気が気でなかった。母さまは今の自分をどのように思っているのだろう。
 ほんの僅かな――当人たちにとっては、実に長い――静寂が場を支配した後、公爵夫人は口を開き、ただ一言だけ娘に言葉を告げた。
「己に恥じぬよう、生きなさい」
 父と比べれば余りにも短いその言葉の意味を、ルイズは正確に悟った。己に恥じぬように生きろ――それはつまり、自分の為す事に責任を持てという事だ。そして、もう自分は誰かに道筋を示して貰い生きるのではなく、自分自身で行く末を決め進んで行け、という事でもある。端的に言うなら、もう責任を果たせる一人前だと言外に言ったのと同じ事。
 言葉少なくとも、母もまた彼女を祝福し、認めたのだ。
「……はい」
 ルイズの返答もまた、短い。しかしそこに籠められていたのは、到底言葉に出来ないような様々な想いだった。

 今度は涙は出なかった。しかし、何か気持ちの有り様が決定的に変わった、と確かにルイズは認識できた。自分の心を占めている不安の一部が取り除かれたような、晴れやかな気分。今まで苦手意識のあった母親と、産まれて初めて気持ちが通じ合えたような、そんな気がした。

 その後の晩餐は、それなりに和やかな雰囲気で進んだ。
 普段は言葉少なげなヴァリエール家の食卓だったが、この日は少なくない言葉が交わされ、場が賑わった。最も、その言葉の大半はルイズが発したものであり――学校での生活の事を話したり、その事についての質問に答えたりと彼女にとっては忙しない晩餐となった。せっかくのご馳走も中々ゆっくりと味わう暇も無かったが、それでも彼女は初めて自宅での食卓が楽しく、美味しいと感じていた。
「そういえば」
 デザートを平らげたエレオノールが、ふと思いついたように言葉を発する。
「2年生に進級する時、使い魔を召喚したはずよね? あなたは一体どんな使い魔を召喚したのかしら」
 その言葉に、ケーキを切り分けていたルイズの手が一瞬止まる。
「今まで学校の話をしているのに使い魔の事は全然出てこなかったから、少し興味があるのよね。ここに連れて来ている様子も無いからもしかして大型獣でも召んだの?」
「ふむ、それは私も気になるところだ」
 父も娘の言を継ぐ。
「系統が土となると、地を行く生き物は全て使い魔の候補と成り得る。小さな野鼠から果ては地竜まで召ばれる事もある。どんな使い魔が召ばれたのか、予想するのも難しい。ルイズ、おまえは一体どんな使い魔を召喚したんだい?」
 優しげな父の言葉も、この質問に限っては詰問されるよりも堪えるものと成り代わる。なるべくこの話題が出ないように気を使って話を進めてきたのに……とルイズは密かに頭を抱えた。
 はーいわたしの使い魔は本ですよー、と言う訳にはいかない。本が使い魔などという自体は珍しいを通り越して完全に有り得ない事象であるからだ。そもそも召喚の儀式とは相手を一方的に呼びつける魔法では無い。召喚の門を開き、相手を誘う。そしてそれを相手が受け入れて始めて成立するのがサモン・サーヴァントの魔法だ。それならば、仮に本の前に召喚の門が開いたとしても、どうやって本がその門を潜ると言うのか。そこから考えれば――まあリインフォースの場合明らかに自分の意思で動き回る事が出来るのだから、不思議は無いのだが――本が召喚されるなどというのは絶対に有り得ない事なのだ。それに、サモン・サーヴァントの魔法とは前述する通り相手の同意があって初めて成り立つものなのだ。逆に言えば、強制力は無く相手の認可を問わねばならない以上、どういう原理か判らないが、必ず意思のあるものの前に開かれる。本が意思を持っていると言う事など――これまたリインフォースは完全に例外だが――有り得ないのだから、本が召喚されるなど絶対に絶対を重ねて有り得ない。もし今この場でそんな事を口にしたら、和やかな空気は一辺して今度は自分の正気を疑われかねない。
「わたしも興味があるわ。ルイズが召んだ子ですもの、きっと凄く可愛らしい使い魔に違いないわ」
 姉の無邪気な笑顔がさらに追撃をしかけてきた。皆の暖かい視線が逆に痛い。うう、どうしよう。
 正直な所、使い魔の事は話さないようにしようという事は事前に考えてあったのだが、いざそれを追求された時どうやって騙すのかまでは考えてなかった。冷静に考えれば春先に召喚した使い魔の話題を避ける事など出来ないと気付いたはずなのだが、疲れきったところにすぐエレオノールが迎えに来たので、そこまできちんと考えを至らせる事は出来なかったのだ。
「その、ですね」
 あはは、と誤魔化し笑いを浮かべながら、曖昧な言葉を吐く。
「なんというか、その、名状し難いというか、とても珍しいというか、すごく表現に困るかなー?みたいな使い魔でして」
「何よおちび、随分と煮え切らないわね」
 明らかに誤魔化しが入っている妹の言葉に、エレオノールが訝しげな視線を投げかける。
「……エレオノール姉さまの前では、言う訳にはいきません」
 暫しの沈黙の後、苦しげにルイズはそう切り替えした。
「ふうん、なるほど、そういう事を心配しなきゃならないような使い魔なのね」
 姉も妹の言葉の意図を察したらしい。意味ありげに合点が言った、と言うように肯いた。
 その様子に、ルイズはなんとか切り返せたかな?と胸を撫で下ろす。こういう言い方をすれば、何故自分が言い澱んでいるのか勝手に理由を察してくれるだろう、と読んだ上での返答だった。エレオノールはアカデミーの研究員、その仕事の内には魔法行使上稀少な事例について研究する事も含まれている。時には、通常では考えられない程強力な幻獣が召喚された例について研究し、またはその使い魔を召し上げ研究対象としてしまう事もある。先ほどの返答は、自分はそのような事を心配しているのだと誤解させる為に放ったものであった。
 姉の方も、初めて自分で召喚した使い魔に対する主の心境というものは理解しているだろうから、珍しい使い魔を召喚してしまったのなら念のために隠しておきたいという警戒心も判ってくれるはずだ。
「そういう事なら仕方ありません、この場でこれ以上聞く事は止しましょう」
 なんとか上手くこの話題は流せたかな、と思ったのだが。
「でも何れ使い魔は検分しに行かせていただきます」
 続く言葉でさらなる危機に追い込まれた。何故ですか姉さま。
「エレオノール姉さま、大人気ない程容赦無いです」
「この場で追求しない情けに感謝されこそすれ、非難されるとは心外ねおちび。あなたが何か珍しい使い魔を召喚したのは解かります。それをアカデミー研究員であるわたくしに見せたくないのも解かります。だからこの場では追求しません。でもそれを抜きにして個人として姉として妹の使い魔に興味があるので見てみたいというのは不自然ではないでしょう? 安心しなさい、決してアカデミーに報告したりはしません。わたくしの胸の中にだけしまっておきますから」
 それじゃ意味無いんだってば、とルイズは心の中で悲鳴を上げた。暖かい家族愛でなあなあで収めてくれると嬉しいな、なんて思っていたがやはり現実は非情だった。これでは締め切りを先延ばしにしたのと同じ事。こうなったらなんとかして自分の使い魔の代役を立てなければ、と彼女は密かに誓う。
 まったく、一難去ってまた一難ね、と心の中でルイズは溜息をついた。


「結局、あの時は使い魔が何なのか教えてくれなかったのよね」
 数匹の小鳥と戯れながらカトレアは残念そうに溜息をついた。
「ルイズの使い魔と会うのがとっても楽しみだったのに、何かすら教えてもらえないなんて」
「ごめんなさい、ちいねえさま。でも軽々しく教えられないのよ、これだけは」
 姉を困らせるのは本意では無いが、こればかりは情に流されて対応を誤る訳にはいかない。
「あやまるのはわたしの方ね。あなたがそこまで口を噤まなければならないんですもの、何か理由がある事くらい解かってるわ。それなのにわがままを言って困らせてしまうなんて、いけないお姉さんね」
「ちいねえさまになら少し位困らせられても良いわ。今までずっと助けてきて貰ったんだもの、それ位して貰わないと釣り合いが取れないわよ」
「そんな事気にしないで良いの。……ねえ、手を繋いでも良いかしら?」
 いきなりの言葉にルイズは戸惑ったが、おずおずと差し出した彼女の手をカトレアは意外なまでに強い力で握り締めた。
 昔は良くこうやって手を握って貰っていたな、とルイズは懐かしむ。昔は手を握ってほしいと自分の方からせがんだものだった。こうやって姉の方から手を握りたい、というのは初めての事では無いだろうか、とルイズはぼんやりと思った。
「こうやって二人きりで外に出かけたのは、何年ぶりでしょうね」
 雲の流れ行く青天を眺めながら、カトレアがぽつりと呟く。
「3年……ううん、4年くらいかも。でもあの時の事は良く覚えているわ。こんな風に二人でお出かけして、花畑でお弁当を食べたの。とても楽しかった」
 ルイズも同じように昔を懐かしんだ。カトレアとの思い出はどれも色褪せず彼女の奥底に大事に仕舞われている。辛い毎日だったが、カトレアと過ごした日々はどれも楽しいものばかり。無能と言われ続けた自分にとって、それは生きる為の支えに他ならなかった。
「でもあの後からわたしは床に伏せる時間が長くなって、ルイズはお勉強に時間を取られるようになって……それで時間が取れなくなって結局今日まで一緒に出かける機会ができなかった」
「そういえばあの後また一緒にお出かけしようねって約束してたものね。ふふ、約束が果たされるまで随分長い時間がかかっちゃった」
「そうね、本当に時間がかかってしまった」
 カトレアは、深く息を吐いた。
「約束を破ってしまうんじゃないかって、それだけが心配だったの」
「やあねえ、ちいねえさまはそんな事を気にしていたの? 別に無理してまで急いでくれなくても良かったのよ。いつかちいねえさまが元気になってからでも良かったのに」
「無理をしなければならなかったの。そうしなければ」
 ぎゅっと、握り締めた手に一段と力が籠められ、そして――。
「きっと……間に合わなかった」
 伏せるようにカトレアの上体が幹から崩れ、地に落ちた。
「ちいねえさま!」
 何も考えず、真っ白な思考のまま、ルイズは姉の体を抱き起こす。何時の間にか顔からは血の気が引き、口からは苦しげな呼吸音が漏れ聞こえていた。端整な顔に浮かぶ苦悶の表情が、彼女に尋常では無い苦痛が引き起こされている事を物語っていた。
「やっぱり無理をしていたのね! ちいねえさまはここで待っていて、すぐに家からお薬を取ってくるわ」
 立ち上がろうとするルイズを、カトレアは力ない腕で必死に制する。
「お願い、今は一緒に居てちょうだい」
「でも、お薬を飲まなきゃ……」
「もう最近はお医者様の治療も全然効果が無くて、お薬も効かなくなってるの。飲んでも、気休めにもならなくなってしまってるから。だから、取ってきても無駄なのよ」
 ルイズは、心が凍りそうだ、と感じていた。薬が効かなくなっているという事にでは無い。何かを悟ったような、諦観の篭った姉の声が彼女の心の臓を凍えさせていたからだ。いつも穏やかで柔らかかった姉の声とは違う、今まで一度だって聞いた事の無い透き通った声。こんな姉の声を、ルイズは知らない。
「なら横になって休みましょう。安静にして休んでいればきっと楽になるはずだから」
「ねえ、わたしの可愛いルイズ」
「今は喋っちゃ駄目よ、ちいねえさま」
 ルイズは姉の体をなんとか横たえる。依然カトレアの様子は苦しそうで、まったく良くなる気配が無い。ずっと握り締められていた手からは、段々と力が失われ行っているのが判る。だから、無理をしては喋って欲しくは無かったのに――それでもカトレアは言葉を紡ぎ続ける。まるでこれだけは伝えなければならない、というかのように。
「まだ小さかった頃、わたしは妹が欲しくて堪らなかったの。姉として振舞うエレオノール姉様の姿を見続けていたからね、わたしもお姉さんになりたい、って思うようになっていったわ。だから、あなたが産まれて来た時、本当に嬉しかったの。きっと良いお姉さんになってみせるって心に誓ったわ」
 激しい咳が彼女の言葉を遮る。だが、それでも言葉は止まる事を知らない。
「お転婆なあなたの事を見守っているのはとても楽しかった。わたしに出来ない事を沢山して、わたしの知らない事を沢山話してくれるあなたが、わたしにとって喜びになった。あなたの存在が、どれだけわたしにとって救いになったか……わたしはお姉さんとしてあなたを助けてあげるつもりだったのに、何時の間にか助けられていたのはわたしの方になっていたって気付いたの」
「そんな事……無い。わたしは、ずっとちいねえさまに助けられてばかりだったわ」
 きっとカトレアが慰めてくれなかったら、当の昔にルイズの心は擦り切れてしまっていただろう。そうならなかったのは、姉が自分の心を癒していてくれたからだというのは当の本人が一番良く判っていた。本当に、助けられてばかりだった。
 そんなルイズの言葉に――苦しげな中微笑を浮かべて――カトレアは頭を横に振って否定した。
「あなたが居てくれたから、わたしは今まで生きてこられたのよ。あなたが居なければきっとこんなに命を存える事は出来なかった」
 弱弱しかった手に、再びぎゅっと力が籠められた。
「でもね、ひとつだけ気がかりがあったの。魔法が使えない所為で、あなたは辛い思いをしていたでしょう? だから、その事で不幸になるんじゃないかって、ずっと心配してた。わたしはね、あなたに誰よりも幸せになって欲しいって思ってたから。先の無い自分よりも未来があるあなたに幸せを与えてあげて欲しいと、始祖さまに祈らない日は無かったわ」
「お願い、もう喋らないで」
 こんな言葉は聞きたくなかった。これはまるで――いや、まさに、遺言だ。
「でも、祈りは届いたわ。あなたはもう、何に悲しむ事も無く、幸せに生きていけるようになったのよ。誰からの謗りを受けることもなく、堂々と胸を張って……。良かった、本当に良かったわ」
 カトレアの瞼が静かに閉じられてゆく。もう、語る事は無いと言外に示すように、ゆっくりと。
「幸せに、なってね。わたしのかわいいルイズ」
「ちいねえさま! ちいねえさま!」
 ルイズの必死の呼びかけに、カトレアが答える事は無い。顔に苦悶が無いのは、苦痛が取り除かれたからか。それとも苦痛を感じる必要が無くなったからか。そこには、幸せそうな笑みすら浮かんでいた。
「駄目よ、死んじゃ駄目よ」
 少女は姉の体を必死に抱きしめる。僅かに感じる胸の鼓動は、回数を重ねる毎に明らかに弱くなっていっていた。それは体から命の火が消えようとしていると、彼女に嫌でも感じさせた。
「わたし、ちいねえさまの事大好きよ。ずっと傍に居て、わたしの心を護ってくれていた、誰よりも大好きなねえさま。そんなちいねえさまが居ない世界で、どうやって幸せになれって言うの。だから、死んじゃ駄目!」
 泣きたいと、心が叫んだ。絶望が、心を塗りつぶそうとした。悲しみが、意思を萎えさせようとし、苦痛すら与えようとした。
 その情動に流されればどんなに楽だろうか。だが、今のルイズは知っている。そんなものに屈した所でどうにもならない。ただ悲痛に暮れたところで、自分は姉を失った哀れな少女として振舞う権利を得る事しかできない。そんなのは願い下げだ。かつての「ゼロ」と呼ばれた自分なら屈していたかもしれないが、今の自分は違う。力を得て、そして責任を得た。今眼前で最愛の姉の命が失われようとしているのなら、それを助ける事が出来るのは、自分だけだと知っている。だから全ての誘惑を撥ね退け、へし折り、ルイズ・フランソワーズは瞳に意思を籠める。
「絶対に……死なせはしないわ」
 片腕は姉を抱き起こし、残る片腕は高々と天へと掲げられた。その掌に現れたのは、金色をあしらう彼女の使い魔。声高に叫ぶ必要も、語りかける必要も無い。主と従は互いにひとつ、その心は何処に居ようと通じているのだから。
「リインフォース、わたしはちいねえさまを助けたい」
『ならば助けましょう、私達で』
 リインフォースの言葉に、ルイズは小さく肯く。
「どうすれば良いのか、指示をお願い」
『そのまま姉上のお体に触れたままで居てください。主の体を媒介として魔力により生体機能の賦活を行いながらスキャンをかけます。まずは救命と、症状の把握に努めなければ』
 ルイズは姉の体を包み込むように抱きしめる。力なく自分に体を預ける姉を見ながら、死なせない、助けたいという一心で細い体を抱きしめ続けた。もしこの後魔法を使わなくてはならなくなったとしたら――リインフォースの保有する、強力でありながらも負担が掛かるだろう異界の魔法を――躊躇無く使う覚悟を心に秘めながら。
 リインフォースもそんな主の覚悟に応えるべく全力を以って為すべき勤めを果たしていた。今にも消えてしまいそうな命の炎を消すまいと懸命に救命活動を行う。魔力によって一時的に呼吸・循環機能を代替し、体を活性化させ、少しずつ小さな炎を蘇らせて行く。その過程で体の隅々までスキャンをかけ、一体何が彼女の体を蝕んでいるのかを探っていった。
 臓器に器質的な問題は無い。だとすると、一体――。
 リインフォースはさらにスキャンを推し進めて行き、そして全てを終えた時、思わず声を上げずにはいられなかった。
『これは、まさか』
「どうしたの。もしかして、手遅れなの……?」
 焦りを含んだリインフォースの声に、悪い知らせなのかとルイズは覚悟を決めかけたが、それは即座に否定された。
『いいえ、違います。……主ルイズ、姉上の体を蝕んでいた原因を特定致しました』
 その言葉には苦々しい感情がこめられていると、ルイズには感じられた。
『簡単に申しあげるなら、過剰な魔力の消費が原因です』
「え? どういう事なの?」
 意外なリインフォースの言葉に、理解が追いつかない。過剰な魔力の消費? それが一体どうやって姉の病気に繋がるのだろう。
「それに魔力の消費って……ちいねえさまはそんなに頻繁に魔法を使ってたりしないわ。魔法を使うと具合が悪くなるから、余程の事がなければ使わないようにしていたはずだもの。大体魔法を使いすぎて体を壊すなんて、そんなの聞いた事無いわ」
『私にも詳しい事は判りません。ただ、魔力源……リンカーコアから過剰に魔力が吸い上げられて、その結果姉上の体に負担をかけ蝕んでいるという事だけは確かです』
 その症状は、リインフォースにとっては忘れ難いもの。ルイズの前の主が患っていたのもこれと同じようなものだったからだ。しかもその原因が自分であったとなれば、決して忘れる事はできない。リインフォースにとって、今のカトレアの状態は自らの咎を見せられているようで辛く苦しい。しかしだからこそまたこうも思う。この人を助けなければ、と。己が背負った罪科を消す事は出来ないが、それを生かすことが出来るのなら、それは少しの贖罪になるのかもしれないのだから。
「とりあえず、難しい事を考えるのは後にしましょう。リインフォース、ちいねえさまは助かるの?」
『今の段階では根治する事は不可能です。しかし小康状態を保ち、延命を図る事は十分に可能です。一度処置すれば1年は問題ないと思いますので、その間に新たな治療法を準備しましょう』
「そう……良かった」
 その言葉を聞いて、ふっとルイズの緊張が解ける。まだ気を抜ける段階では無いのだが、命が助かると聞いただけで安心してしまった。
『ここからは、主のお力も必要となってきます。最後まで気を抜かずに行きましょう。』
「そうね。まだちいねえさまは助かった訳じゃない。わたしが助けなきゃならないんだからね」
 巨木の袂に、光が満ちる。ルイズの足元に出現した美しい紋様の魔方陣は姉妹二人だけでなく回りの全てを包み込み――その中で、少女は優しく魔法を唱えた。


 夜闇の中、リインフォースは睦まじい二人の姉妹の様子を見守っていた。
 カトレアは己の居室のベッドで静かに横たわっている。健やかに寝息を立てている様は、とても昼間に命の炎を散らそうとしていたとは思えない程健康的であった。その横では、ルイズが姉の手を握りながら椅子にもたれかかって眠っている。姉に付き添ったまま、眠ってしまったのだ。
 昼間ルイズとリインフォースが行った処置。それは単純なものだった。魔力が過剰に失われてしまうのなら、その魔力が消費されないようにすれば良い。その為にリインフォースは一種の魔導プログラムを組み上げてカトレアのリンカーコア――魔導師が持つ、魔力源――に制限をかけ、一日に消費される魔力量を制限したのだ。要するに一種のリミッターを仕込んだ、という訳だ。これで彼女は当分魔力の消費に悩まされる事はなくなり、身体の回復に力を裂く事でできるようになる。このプログラムは急場凌ぎのものでいつかは壊れてしまうが、それまでに恒久的に用いられるものをリインフォースが組み上げ用意すれば良いだけの事。もう、カトレアが病魔に苦しむ事は無い。彼女も自分の幸せを望んで生きていけるはずだ。
 静かに眠るルイズの顔もカトレアの顔も、幸せそうだ。自らの力が誰かの幸福の為に使われるのは彼女にとってこの上ない喜びだ。それが己の主が望んだ事であるならまた格別だった。

『しかし、疑問は残されたままだ』
 カトレアの病状を食い止める事は出来た。しかしその原因が真の意味で解明できた訳では無い。何故彼女のリンカーコアは過剰に魔力を吸い上げられていたのか?その原因がさっぱりわからない。万全な状態の彼女であったならあるいは原因をつきとめる事も可能だったのかもしれないが、今の半壊状態の彼女ではこの程度が限界なのだった。
 この病気に関係する事なのかどうか判らないが、この部屋にカトレアを運んだ際にリインフォースは主から興味深い話を聞いた。
「ちいねえさまはこう見えてもトライアングルクラスの腕前なのよ。お家で魔法を勉強して、半分独学で覚えたのよ」
 トライアングルクラス。それはこの世界の魔法の使い手としてはかなりのものという事だ。しかし、しかしだ。
 ――明らかにカトレアの魔力量は、少ない。
 魔力量だけが魔法の技量を左右するのでは無い。しかし魔力量がなければ高度な魔法を使いこなせないのもまた真理である。だというのに、彼女はトライアングルなのだと言う。リインフォースの見たところ、魔力はあると言ってもあるだけまし、という程度にしか無いにもかかわらず。はっきり言って、主であるルイズの10分の1どころかその半分すら無い。また逆に、ルイズは明らかに人並み外れて――少なくとも、彼女がこの世界で見た中では明らかに最高級の――魔力量を誇りながら、魔法が使えなかったと言う。この矛盾した状況はなんなのだろう。
 そういえば、とリインフォースは思う。かつて自分が蒐集したメイジ、確か土くれのフーケだっただろうか?彼女の魔力量も使う魔法の規模からすれば大分多かった。そのお陰で修復も捗ったのだが、思えばあの時点で既に違和感はあったのだ。
 また曰く、土のメイジが錬金で金を製作する場合、せいぜい月に1回しか行う事ができない。一ヶ月分の魔力が溜まっていないと使えないから。
 魔力を溜める。これまたおかしい。時間をかけて魔力が溜まり、強力な魔法が使えるようになるなどというのは、長い時間をかけ数多の世界を巡ってきたリインフォースにとっても未知の魔法形態であった。未知、というよりも不可解と言って良い。少なくとも自分の知る魔法体系では絶対に説明しようが無い現象だ。
 そして主であるルイズとの融合不全。幾ら自分が機能を損なっていたとしても、主にあそこまで負担を強いるような機構になっているはずがない。主の保護は最優先事項であり、例え自分が全壊しようと主に危害を及ぼす事は無いと、己の誇りに誓って断言できる。だというのに引き起こされたこの障害。何故、こんな事が起きてしまうのか。
 この世界は、そしてここに住まうメイジとは一体なんなのか。リインフォースは改めてこの世界への疑問と不安を覚えずにはいられなかった。


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22 : 55 : 31 | 夜天の使い魔 第二部 | トラックバック(0) | コメント(4) | page top↑
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コメント
更新お疲れ様です
なんという素晴らしき姉妹の絆。ほのぼのとした裏では色々な伏線が張られましたね
次も楽しみにしてます。ですが、体にも十分気をつけて、ゆっくり書いてください
by: 青鏡 * 2008/09/20 02:47 * URL [ 編集] | page top↑
更新お疲れ様です。
ほのぼのとした展開かと思いきや、急転直下の勢いで話が動きましたね。

魔法についてですが、ミッドやベルカ式の魔法は数学がベースになっているので色々と理解しやすいんでしょうけど。系統魔法のルールについては、最早ノボル神の胸先三寸みたいなとこがありますからね…偏在とか。
元スレでは魔砲さんが面白い解釈をしていましたが、夜天さんなりの魔法の解釈を楽しみにしたいと思います。

それでは、健康に気を付けてこれからも頑張って下さい。
by: NYcat * 2008/09/20 03:49 * URL [ 編集] | page top↑
重箱の隅をつつくようですが………
>本が意思を持っていると言う事など有り得ない
デルフや地下水などインテリジェンスシリーズが存在する以上、インテリジェンスブックが無いとは言い切れない
by: taka * 2008/09/21 15:16 * URL [ 編集] | page top↑
>>「でも何れ使い魔は検分しに行かせていただきます」
お姉さまズ魔法学園押しかけフラグキター!!

>>こうなったらなんとかして自分の使い魔の代役を立てなければ
まさかのキュルケヴァリエール家訪問フラグキターー!!!

もしかして36話の伏線の正体でしょうか?
続編楽しみにしてます。
by: * 2008/09/23 22:41 * URL [ 編集] | page top↑

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