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夜天の使い魔16話

 最後の時を謳歌するべく設けられた祝宴の場に、どどん、と言う大きな揺れと耳障りな破砕音が響き渡る。
 音は一度に止まらなかった。二度、三度、それを超えて何度も何度も続き、その度にホールは大きく揺れる。人々は倒れぬように必死になり、テーブルに乗せられた勢を凝らしたご馳走はその場より滑り落ち、床に叩き付けられ無残に飛び散った。貴族達はなんとか平静を装おうとしていたが、それでも動揺は隠し切れず、皆目を見開き驚愕のまま身を固まらせていた。哀れなのは平民の給仕達で、皆恐ろしさにただ震え抱き合うのみであった。
「一体何事じゃ!」
 いきなりの事に皆がうろたえる中、一人老王のみが毅然と声を張り上げる。年老いた姿は一見力なく見えるが、やはりこの人は王なのだと、場の誰もが認識を改めた。
 その声に呼応したかのように、血塗れの兵士がドアを勢い良く開け――いや、体当たりするかのように激しく――ホールへと走りこんでくる。
「て、敵襲ーっ!」
 兵士はその言葉を放つ事で全ての命を使い果たしたかのように、場に崩れ落ちた。体は焼け爛れ、切り刻まれ、この場に来るのにも想像を絶する苦痛を感じていたであろう。しかし彼はそれでも尚この場に向かったのだ。己の職務を、全うする為に。
 
「卑怯なり、貴族派! 我らを謀りおったな!」
 一人の貴族が、怒りの気焔を吐いた。手に持ったワイングラスは粉々に砕かれその欠片は手をも切り裂いていったが、そんな事は意に返さないように彼の拳は固く握られ、度し難い怒りに震えていた。
「皆の者、敵を迎え撃てい! 女子供平民は皆地下の港に行きフネに乗るのだ。アーノルド、皆を誘導せい!」
 怒号の如きジェームス一世の声が響き渡る。それを契機に、男達の顔は笑顔から引き締められた兵士のそれへと変貌し、一斉にホールの外へ駆けて行く。一刻も早く敵を迎え撃たなければ、容易くこの城は落とされてしまうだろう。何しろ敵の軍勢は5万、対するこちらは300。守る有利があるとは言え長くは持たない。この命に代えてもせめて避難民が逃げる時間を作らなければ、誰一人の例外も無くそう考えていた。
 
 キュルケもまたいきなりの事態に戸惑いを隠せてはいなかった。部屋が大きく揺れ続けるこの状況下で、必死に姿勢を保つので精一杯の様子だった。
「ルイズ! タバサ! 何処に居るの!?」
 声を張り上げながら二人の姿を探す。人が津波のように動いており、どこを見渡してもその姿を見つける事は出来なかった。
「何処なのー!? 返事をしてーっ!」
 有らん限りの力を籠めて、必死に声を張り上げ続ける。だが、それに答える声は無かった。
 怒涛の如くうねる人波の中、半ば呆けながらも、ただひたすら二人の無事をキュルケは祈っていた。
 
 その轟音は天守まで響き渡ってきた。耳を劈く音の中、ワルドは満足気に笑みを浮かべながら、ゆっくりとウェールズの下へと歩み寄る。一歩づつ、絶望感を与えるように。
「我らが軍勢は優秀だ。何もかも手筈通りに進んでいる。あなた方ふんぞり返っているしか脳の無い時代遅れのお坊ちゃん達とはデキが違う」
 嘲るようなその言葉に、ウェールズは苦痛と怒りで顔を歪ませる。
「そうか子爵、君は貴族派の仲間だったのだな……この音は貴様らの仕業なのか!」
 ワルドはその怒号を意に返さずやれやれ、と呆れたように首を振りながら答える。
「そのような無粋な呼び方は止めて頂きたいものですな。我々の事は『レコン・キスタ』と、そう呼んで欲しいものです」
 ついにワルドがウェールズのすぐ目の前に近付いた。魔法を使わず、このように近付いてきたのは彼の嗜虐か、それとも驕りか、もしくはその双方か。ウェールズは必死に体を動かそうと全神経に動け、と良しを伝達する。しかし先程の一撃は思いの外重く、体が自由を取り戻すには今しばらくの時間が必要なようだった。しかしそれでは遅すぎる。あと数十秒の後には、自分の命は無残に散らされてしまうだろうか。彼の思考に、絶望が翳る。

「いかにも、この音は我らがこの城を攻め落とす音。おめでたいあなた方の事だ、刻限を定めれば必ずやその前日にはこのように最後の晩餐を開くと思っていましたよ! その隙に攻め入ればこうやって酷い混乱を巻き起こす事が出来る。それが第一の策」
 ワルドはウェールズの胸倉を掴むと、彼の体を片手で吊り上げる。子爵の左腕は体格から予想されるよりも遥かに強力な膂力を備え、美丈夫の体は宙へと掲げられた。ウェールズはなんとか逃れようとするが、未だ四肢に力が入らないようで、それらは力なく僅かに振られるに止まった。
「そしてその隙に、先に侵入していた僕がこうやって貴方に近付いて事を済ませる。これが第二の策。真実の所、こんな城を落とす事は我々レコン・キスタには容易い事だったのですがね、それをしなかったのは何故か判りますか殿下?」
 ワルドの能面のような表情はそのまま、しかし目の奥にぎらり、と危うい光が燈るのをウェールズは見た。
「僕には三つの目的があった。一つは貴方の手紙。これは容易く手に入りました。可愛い婚約者のお陰でね……本当に良い子だ僕のルイズ! なんの疑いもなく手紙を渡してくれましたよ。そして二つ目」
 空いているワルドのもう一方の手が、ウエールズの左腕を掴み、そして指に嵌められた秘石を認めると、するり、とその指より指輪を抜き取る。
「それはこの『風のルビー』を手に入れる事。この石を持ってくる事を我が主から厳命されていてね。出来る事なら『始祖のオルゴール』とやらも手に入れたかったが、こちらは残念ながらここには無いようだ。――お分かり頂けましたか? レコン・キスタ総勢でこの盛大な茶番を打ったのは、この二つを確実に手に入れる為だったのです。そして目的のものを手に入れた今、最後の仕事を済ませるとしましょう」
 再び鉄杖が握られた右手がぎりり、と後方へ引き絞られる。朗々と口から流れるスペルと共に、そこに纏われるのは風。それは激しく杖を覆い、鋭い衝角のような荒々しい形を作り上げた。風の魔法、エア・ニードル。その鋭き風の銛は人の肉など容易く貫き、絶命させるだけの力を持っていた。
「三つ目の目的……それは貴方の命だ、ウェールズ・テューダー!」
 杖が突き出されんとした刹那、ワルドは己の体に思わぬ衝撃を感じた。自らの肘や肩をしたたかに打ちつけるそれが杖の軌道を逸らし、風の刃はウェールズの顔の真横を通り抜けてゆく。髪がはらはらと舞い散り、彼の側頭部からは地がだらだらと流れ出た。また同時に衝撃は拘束をしていた左腕の力も緩め、皇太子の身は床へと投げ出される事になった。
「お止め下さい、子爵さま。何故このような事をなさるのですか!」
 それを引き起こしたのはルイズであった。彼女が小さい体で必死に体当たりをし、ウェールズの命を救ったのだ。
 ルイズの様子に、ふむ?、とワルドは小首を傾げた。即死はしなかっただろうが、あの感触は確実に致命傷であったはず。胸の骨は粉々に砕け散り、今頃息も出来ず苦しみに悶えて床に転がっているのが筋のはずであった。それが何故こうして五体満足に立ち上がり、あまつさえ体当たりまでしている? 彼は予想外の展開に僅かな苛立ちを覚えた。
 ワルドはルイズの姿に、微かな違和感を覚える。先程と何かが違う。それは一体何だ? 彼女の姿を観察したワルドは、あるものの存在に気付く。
 本だ。古びた、それでいて立派な本が彼女の小脇に抱えられていた。そんなもの、先程までは持っていなかったはず。あれは一体なんだ?
 ――まあ良い。本の一冊など、これから為すべき事のなんの障害になりはしないのだから、捨て置くべし。
 
 だがそんな瞬き程の時間を思考に取られた僅かばかりの隙を、地に転がるウェールズは突いた。引き絞られた弓より放たれし矢の如く、猛烈な勢いで駆け出す。疾風のように駆けだした彼は一直線にルイズへと向かうと素早く――彼女が叫び声を上げる間も無い程に――抱え上げ、その足を緩めず階段を駆け下りて行く。ルイズが稼いだほんの僅かな時間が、彼に回復するだけの余裕を与えたのだ。力を取り戻したウェールズは迷う事無く逃げる事を選んだのだ。
 あの場で隙を突き飛び掛ったとしても、簡単にいなされてしまっていただろう。ワルド子爵は相当な使い手、杖も剣も持たぬ徒手空拳で向かった所で返り討ちにあうのがおちだと判断したのだ。まずは逃げなければならない。
 それに――ウェールズは抱えた少女の姿を見る。あの場で荒事をしたならば、きっと彼女の命も危険に晒されていたであろう。そのような事許せるはずも無い。
 天守を降り、螺旋階段の影に身を潜めるように隠れるウェールズ。そこでやっとルイズを腕より降ろしたのだった。
 ルイズは余りの衝撃に呆然としたままだった。呆けた表情で、「何故……」と呟くのみであった。
 その様子の痛々しさに胸を痛めるウェールズ。二人が一緒に居る所を見たのは祝宴の席での僅かな時間の事であったが、それでも彼女がとても子爵の事を信頼し、また慕っていたというのは良く判っていたからだ。そのような相手に利用され、また命を狙われる。これ程酷い話は無い。
 本当ならそっとしておいてあげたいと思う。だが今は一刻の猶予も無い事態だ。外からは敵が攻め入り、命を狙う死角が傍には居る。まずは皆の居る場所まで逃げ延び、しかるべき対策をとるべき時だ。
「ミス・ヴァリエール」
 己を呼ぶ声に、はっと我に帰ったようだった。しかしそれでも尚、表情には覇気が見られない。その事がルイズという少女の受けた衝撃の大きさを物語っていた。
「殿下……子爵さまは、何時でも優しくて、わたしを大事にしてくれて、辛い時は元気になるまで慰めてくれるような人なんです。それが、どうして」
「ミス・ヴァリエール、彼は貴族派の間諜であったのだ。そして目的の為に君を利用した。辛いだろうが、これが現実だ」
 ルイズの体が力なく崩れ落ちる。ぺたん、とその場に座り込み、はらはらと頬を涙が伝った。声も無くただ頬を流れ落ちる涙が、一層痛々しかった。
 だが、彼女を慰めている余裕は無かった。不意を突いたとは言え、すぐにワルド子爵はこちらに向かってくるだろう。二人を、殺す為に。
 ウェールズはルイズの手を掴み、走り出す。ルイズは為されるがままに引かれ、彼の後を着いて行く。目指すのはホール、そこが天守のある中央から最も近い、人の居る場であった。運の悪い事に、天守付近に人は居ない。城の見張りは最小限を残し、全ての者が最後の祝宴に参加していたからだ。
(上手く逃げ切れると良いが)
 不安が彼の心を塗り込めるが、それを敢えて感じないかのように振る舞い、駆ける。こんな所で死ぬ訳にはいかない、そう、己に言い聞かせながら。
 
 岬の突端に位置するニューカッスル城。そこに向かう唯一つの道に兵達が兵隊蟻のように群がり、陣を敷いている。先頭に立つのは15メイルもの巨躯を持つ岩の巨人達で、その数は三。各々が両拳で城壁を殴打しており、これこそが場内に響き渡る破砕音と揺れの大本であった。ゴーレムで攻め入るのは城に攻め入る時の手段としては定番の一つ。巨大な拳は築き上げられた城壁を無残に破壊し、兵達が攻め入る為の礎として機能する。
 しかし今回は少々趣が異なっていた。彼等の攻めは――見た目の荒々しさとは正反対に――思うように城壁を破壊してはいないようであった。ゴーレムを操るメイジ達の腕が不確かなのであろうか? そうでは無い、彼等は意図的に城壁を破壊せぬように攻撃をしかけているのだ。外に控えるレコン・キスタの軍勢の目的、それはこの城を攻め落とす事では無い。恐怖を与え、混乱を招き、真の目的を遂げる為の介添え人が彼等の役目であった。城を攻め落とすのは中に進入したワルド子爵が事を遂げてからだ。そしてもしそうなったのなら、おそらくニューカッスル城は――半刻も持たずに――その姿を瓦礫に変えるであろう。それ程に、彼等は精強で、圧倒的な強さを持っていた。
 
 王党派の者達もただ手をこまねいてこの事態を静観していた訳では無い。平民の兵達は弓を引き、貴族は手加減抜きの大魔法を次々に放ち彼等に抵抗する。だが彼等が幾ら奮闘しようと、大地よりは何倍にもなる数の反撃が返ってきて、さらに空からは竜の放つ火炎の吐息が勇敢な兵達を焼き尽くした。既にこれは戦いの様相を呈しては居なかった。これは狩りである。血気盛んに出てきた間抜け達を上手に打ち落とす、そういう余興に近かった。
 だがそんな絶望的な状況であろうと、王党派の者たちの目は些かばかりの恐怖も絶望も感じてはいない。死ぬのは既に必定と、心を決めた者達ばかり。例え嬲られるような戦場であろうと、怯む道理は有りはしなかった。如何なる傷を負おうとも、命尽きるその時まで、見据える視線が敵より外される事は無い。腕が飛ぼうと、腹が抉られようと、彼等は渾身の力で戦い続ける。望むは唯一つ、栄光ある敗北。ここで背を見せようものなら――羞恥でおちおち死んでもいられぬ! 男達の雄叫びが、暗いニューカッスルの夜空の全てに満ちてゆくように、高らかに響いていった。


 石造りの廊下を、ひた走る二人。外より漏れ聞こえてくる轟音と破砕音は状況が最悪である事を物語っていた。
 ウェールズの心を焦燥が支配する。平民達は無事に非難出来たのだろうか、一刻も早くイーグル号へと赴き、指揮を執らなければ。

 眼前の暗き闇の中、燭台の映し出す影の淵よりその人物は現れた。のっそり、ゆっくりと、地獄からの使いのように、禍々しさと絶望を持ちながら。
「いやはや、鬼ごっことは少々童心に返りすぎではないですか殿下? このような戯れに興じるのは本意では無いのですが」
 それは、ワルドの姿だった。天守に居たはずの彼が今ここに、まるで距離を感じさせぬ速度で先回りをしてきた。
「そうか、予め『遍在』を仕込んでいたか!」
「その通り、風は遍在する。同じ風のメイジである殿下にとっては良くご存知のはず」
 子爵は先回りしたのでは無い。先にこの場で、待ち伏せをしていたのだ。「この」子爵は。
 風属性の魔法に、一際特徴的なある魔法がある。それこそが「遍在」。術者と寸分違わぬ写し身を作り出す魔法。その分身は意思を持ち、思考し、その魔法を用いたものと同等の力量を備える。云わば自分という存在をそのまま増やす魔法である。スクエア・クラスでなくては使いこなす事が出来ないこの魔法は、様々な用途に使える。自らの身代わりとしての囮とするも良し、同時に複数の場所で行動するもまた良し。しかし今の場合純粋に恐ろしいのは――。
「僕のモットーは仕事は素早く手際良く、でしてね。さっさと事を済ませて、ゆっくりとワインを傾けたいのですよ」
 彼等の背後からも一人、ワルド子爵が現れる。
 純粋に恐ろしいのは、凶悪な刺客の数が増える、と言う事だ。ワルド子爵は恐らくトリステインでも有数の戦闘能力を持ったメイジ。そのような相手を複数相手にするなど、絶望以外の何物でも無い。
 同じ姿を持った二人のメイジは、まったく同じ動きで、同じスペルを唱える。まったく同じ声が二つ重なり、不可思議な協和音を奏でた。
 杖が振るわれ、放たれたのは「エア・ハンマー」。形無き風が圧倒的な圧力を持ち、巨大な鉄槌となって襲い来る。それが、前後よりまったく同時にウェールズとルイズを襲った。言わば形無き圧搾機、それは二人をぺちゃんこに押しつぶし、凄惨に血を巻き上げながら二つの無残な骸を作り上げるはずだった。
 しかし――二人は、生きていた。勿論、まったくの無傷という訳では無い。体中の所々から血が滲み出し、来ている衣装はぼろぼろに破れてしまっていた。足は膝をつき、両足で立つことすらおぼつかない、まさに満身創痍。しかし、それでも死んではいなかった。
 一体何故だ、と二人のワルドは同じように心の中で思案した。これはまるで魔法の威力が弱まってしまっているようだ。今の一撃は確実に必殺であった。仕損じるなどと、天地がひっくり返っても有りはしない。彼の繰り出す魔法は全てが一撃必殺、その威力の前に生き延びられるものなど居ない、そう自負していたのだ。それが何故、殺せない?

 苛立ちと、怒りとがないまぜになった思考に囚われたワルドの目に、さらにそれを助長させる光景が展開した。
 体を震わせ、力の抜け落ちそうな四肢に必死に力を入れて、それでも尚堂々と立つ少女の姿。双眸からは未だ涙が流れ落ち、表情は悲しみに彩られている。だがその姿は彼女の後ろに倒れているウェールズを守ろうとする確かな意思が感じ取られた。
「ルイズ……僕のルイズ」
 能面のようだったワルドの顔が、初めて表情を作る。それは紛れも無い苛立ちの顔。激しく歯噛みし、ままならぬ状況に怒りを覚える表情だった。
「そのまま大人しく寝ていれば、楽に死ねたものを……どうして立ち上がる? 何故彼を守ろうとする? 君にとってなんの益も無い行動だろう、それは」
「『ウェールズは勇敢に戦い、死んだ』」
「……なんだと?」
 ルイズが発した言葉の意味を、ワルドはまったく理解出来なかった。一体何を言っている?
「『ウェールズは勇敢に戦い、死んだ』……そう伝えて欲しいと、殿下にお願いされました。その時わたくしは決めたのです。その姿を出来る限り目に納め、姫さまにお伝えしようと。ならば、このような所で犬死させる訳には行きません」
 涙に濡れ、声を震わせながら、だがそれでも毅然と彼女は言い放った。
「そんな……そんな事の為に僕に歯向かおうと言うのか!」
 ワルドの口から漏れ出したのは哄笑だ。余りにも滑稽で、愚かな物言いに、彼は笑いを堪える事が出来なかった。
「たったそれだけの事の為に! 己の命も顧みず、この僕の前に立ちふさがろうと、そう言うのだなルイズ。なんと言う愚か、なんという無謀! 宜しい、ならば身を持って知りたまえ、そんな事は無駄なあがきだと言う事をね!」

 ルイズが己の使い魔より抜き出したるは、小さなタクトだった。いざという時の為に、挟んでおいた予備の杖だ。それは本に挟まる程細く、実に頼りないように見えたが、今のこの場に於いては唯一の切り札であった。
 抜き出されると同時に振り出されるタクト。刹那、前方に居るワルドの両壁が崩れ、それより構成されたゴーレムが挟撃をしかける。土の無い状態の今、取れる攻撃手段は僅かしか無い。野盗を撃退したやり方の応用で、壁より直にゴーレムを削りだしたのだ。
 二体のゴーレムが拳を振り上げ、子爵の身を狙う。その身の丈2メイル、彼の上背より高いそれらは相当な威圧感をもって迫ってきているように思えるはず。それなのに、当のワルドはまったく動揺した素振りを見せない。ただ静かに、それを待ち構える。
「我が二つ名は『閃光』」
 風を切り、唸りを上げ振るわれる鉄杖。
「このような緩慢な動きで……」
 一閃が、左右より迫り来る腕を瞬く間に砕き上げる。鉄杖は鈍い光の弧を描き、容易くそれらを破壊した。
 「捉えられるとでも思うたか!」
 振るわれる杖の軌跡は止まる事を知らず、次々と岩の体を砕き、砕き、ひたすらに砕き、やがて単なる岩の塊へと帰した。岩をも砕く、それはまるで亜人の如き膂力であった。

 杖はさらに動きを止めず、間髪入れずにルイズ達を指し狙う。巧妙に詠唱された魔法が、同時に発動した。
 彼が再び唱えたのはエア・ハンマー。しかしそれをルイズもまた冷静に――既に削りだしていた――ゴーレムで受け止める。だがその代償に、ゴーレムの体には亀裂が入り、砕ける寸前と言った様相となった。
「横に飛ぶんだ、ミス!」
 一撃を防ぎ、やや気持ちを弛緩させていたルイズに飛ぶ叱責の声。訳も判らぬまま、転がるように脇へと飛び込む。
 刹那、今度こそゴーレムは完全に砕け散った。
 時間差で、後方に位置していたワルドが、魔法を放ったのだった。もしウェールズの声が無ければ、今頃ルイズは直撃を受け、それこそ死に体となっていただろう。
「ミス・ヴァリエール! 私に『錬金』で剣を!」
 ルイズはその声に行動で答える。壁より新たにゴーレムを生成しながら、砕け散った岩を土に錬金し、再錬金で剣へと作り変えた。ウェールズはその剣を手に取ると、ワルドへと向き合い、静かに切っ先を敵へと向けた。
 ワルドはその間、二人の行動を面白そうに眺めていた。   ――やってみろ、そのように目が物語っていると、ウェールズには思えた。
 数の上では互角。しかし技量は明らかにあちらが上だろう。対してこちらは満身創痍の二人、しかも一人は杖無しだ。
 ――勝機を掴むなら、道筋は一つ!
「うおおおおおおおおおお!」
 ウェールズが吼える。振るわれる刃は暴風の如し、荒れ狂うように我武者羅に、ワルドを執拗に切りつける。数多の剣閃の前に、彼の魔法衛士隊隊長も我が身を守るのに精一杯の様子であった。息つく暇も無い攻撃の前では、呪文を唱える事は不可能であった。
 杖を持たぬ身で、やれる事は一つ。相手の詠唱を邪魔し、釘付けにする事だけだ。そう、ウェールズは判断した。あとは信じるしか無い。背後で勇気を振り絞り戦う少女が、きっと状況を打破すると。

 ルイズが新たに作り出したゴーレムの数は二体。そして先程砕かれたゴーレムの岩塊より30サント程のゴーレムを五体組み上げる。おそらくこれで打ち止めだろう、とルイズは判断した。削りだした壁の向こうは既に外に通じている。廊下の壁面殆どを使ってしまった状況であり、これ以上ゴーレムを削りだす余裕のある部分は残っていなかった。城の三階部分に設けられたこの廊下はまるでつり橋のような姿に変貌しており、激しく動けば足を踏み外して落ちてしまいそうだった。
 眼下にある大地から巨大なゴーレムを作り出そうか、とも考えたが、この状況で大ゴーレムを作り出した所で、まかり間違って廊下を打ち据えてしまえば皆大地へと叩きつけられてしまうだろう。それに――そのような巨大なゴーレムを作る時間を与えてくれる程、目の前の相手は優しくはない。
 勿論逃げる事も叶わない。背を見せたら最後、あっと言う間に身を切り刻まれてしまうだろうから。ルイズに残された道はたった一つ、戦う事だけだ。大好きだった、許婚と。
 
「ああああああああああ!」
 裂帛の気合と共に、タクトを振り上げる。優雅にて荒々しき激情を持ち、楽団の指揮者のように振るわれるそれこそが、彼女の戦う意思の表れであった。
 そして奇しくも、ルイズのそれとウェールズの咆哮が上げられたのは、ほぼ同時だった。
 ルイズの敷いた布陣は、己の守りに大ゴーレムを一体、小ゴーレム五体を先鋒に大ゴーレム一体と突っ込ませるという形だった。ルイズの算段はこうだ。流石に計六対のゴーレムを相手に、魔法を使わずに対処してくるとは考え辛い。必ず、ゴーレムを砕く為に魔法行使を行うはずだ。そして肝心なのはその次。攻めに裂いたゴーレムを捌いたワルドが起こすであろう行動として予測出来るのは二つ。一つはさらに魔法で自分を攻め立てる。二つ、直にその身で攻め込んでくる。だが、どちらであろうとやる事は変わりない。最初に攻めとして用いたゴーレムは全て囮だ。破壊される事を前提とした、特攻役。その真価は破壊されたより後に発揮される。ワルドが攻撃をしかけてきた所を控えさせていた大ゴーレムで受け止める。そして、その隙に――既に破壊される事を見越して先行して呪文を唱えておき――素早く崩されたゴーレムより再びゴーレムを再構築、隙を見せたワルドを下す。これこそが、ルイズの考え出した攻略の策。
 彼女はギトーとの一戦を思い出す。風が大地を吹き飛ばす事など出来はしない。吹きすさぶ風を押さえ込み、かき消す事が出来るのが土なのだ。
 六体のゴーレムが隊列を組み、疾走し石畳を踏みしめる音が鳴り響く。たった六体でありながら、それに十倍するかのような威容を以って石人達は突き進む。
 それを迎え撃つワルドは、杖の切っ先を天上に向け、正中にそれを構えながら待ち受ける。滲み出る威風はまさに歴戦の勇士そのもの、石人達の隊列に、なんら遅れを取った雰囲気など見られなかった。
 ワルドの口元が、素早く蠢く。鍛え上げられた高速呪法に紡がれた言葉は、誰にも聴かれる事は無い程小さく、また早かった。しかしその効果は誰の目にも明らかなものとなって現れる。中空を穿つが如く突き出されし杖が巻き起こすのは暴風。凶悪な風圧を持つ風が、石人達の悉くを吹き飛ばして行く。暴風の威力は凄まじく、それはルイズの背後で戦うウェールズ達にも及ぶ程激しいものであった。
 ルイズはそこに信じられないものを見た。僅か2メイルとは言え、石で作られたそれは人の体より遥かに重い。それであるのに、まるで秋風に舞う落ち葉のように――彼女のゴーレムが、風に煽られ吹き飛んできているのだ。その事実に驚愕を覚えた瞬間、二つのゴーレムが大きな音を立てぶつかり合う。各々のゴーレムはびしり、と音を立ててその身を崩壊させた。その事に不味い、と思う間も無く石人の体はぼろぼろと崩れ、その破片が――さながら砲弾の如く――ルイズの体に突き刺さる。声を上げる事すら不可能な程の苦痛が、一瞬彼女の意識を削り取った。

「ゴーレム使いの最大の武器は、その粘り強さだ」
 真っ暗な世界の中で、声だけが脳裏に鳴り響く。
「壊しても壊しても、ゴーレムは再生し、戦意を持って向かってくる。実に厄介な手合いだ。倒す為の定石は、ゴーレムでは無く術者を下す事。そう、このようにね」
 徐々に視界が世界を形成し始める。暗き世界に線が引かれ、白と黒という色が備えられ、まるで線画のように風景を描き出す。それと共に、現実感を持たなかった五体の隅々までが覚醒した。感じるのは際限の無い苦痛。今の彼女の体は、ただ苦痛を告げる為のものと成り下がっていた。
「土、水、火、風……僕はあらゆるメイジと戦い、勝利してきた。例えどのような戦法を用いる相手であろうと遅れを取る道理は無い。最初から、君に勝ち目など万に一つすら無かったのだよ、ルイズ」
 ルイズが意識を完全に取り戻した時、既にワルドは彼女に肉薄していた。逞しく、頼り甲斐があると思っていた姿が、今はただ恐ろしい。圧倒的な力は全てを蹂躙し、自分などその前ではまったくの無力でしかないと、思い知らされた。恐怖が体を震わせて行く。自分を見下ろすその姿は、地獄から這い出てきた悪鬼ではないかと錯覚すらしてしまう。
 ワルドは冷たい視線のまま、足を引き――勢い良く振りぬいた。それはルイズの体を捉え、まるで出来の悪いボールのようにごろごろと彼女の体を転がした。容赦の無い一撃が彼女の臓腑を傷つけたのだろう、口から赤黒い血を吐き出しながら少女は転がって行った。
「ラ・ロシェールでの山道……君が見せた力は素晴らしかった。これならば、殺すよりも取り込んだ方が使い道がある、そう思っていたのに。折角可愛がってやろうと、そう思っていたのに」
 その声は明らかに怒気を含み、あまりに度を越したであろうそれが彼の声を無様に震わせていた。
「何も知らない世間知らずの小娘がっ! 調子に乗って、つけあがって、あまつさえこの僕に立て付くだと!? ちっぽけな小娘如き、大人しく僕の言う事だけを聞いていれば良かったんだ! 許しがたいぞルイズッ! 君は大罪を犯した、死を持って償う以外に贖いの道は無いーッ!」

 その声に焦りながらも、ウェールズにはどうする事も出来なかった。今攻め手を緩めれば、目の前の相手はいとも簡単に自分を殺すだろう。このように終始押し続けていなければ、現状維持すらおぼつかないのだ。既に剣筋を読まれ始めている。魔法を唱えさせないようにするのにも死力を尽さねばならない状況では、ルイズを助けるなど出来ようはずもなかった。
 
 美しかった純白のドレスは方々がちぎれて薄汚れ、愛らしい顔とか細い体は血に汚れ、その姿はまるで打ち捨てられた人形のようであった。そこまで傷ついて尚。
「殿下は……死なせ……ない……」
 ルイズは再び立ち上がった。既に目は焦点定かでなく、意識は朦朧として己が何をしているかも確たるものはないのだろう。もはや杖を握る力も失い、唯一の武器たるタクトも手放した、その事にも気付いていない。それでも、揺ぎ無い意思が彼女を突き動かすのだ。
 ルイズはウェールズの背後を守るように、立っていた。決して傷つけさせぬと、その姿は物語っていた。
 ウェールズはその背に感じていた。ルイズが全てを賭けて己を守ろうとしている事を。目に見る事が叶わなくても、気高き行いは彼の魂を震わせ、全てを理解させていた。
 自然を頬を涙が伝う。高ぶった感情が、双眸より溢れ出すのを、彼は止める事が出来なかった。
「もう良い、もう良いんだ」
 なんの打算も持たず、ただ自分との近いを果たす、それだけの為に命を投げ出す姿に、彼は高貴さを感じ取った。
「君は立派に戦い抜いた――だからもう、良いんだ」
 その声が届かなかったのか、それとも届いていながらも従わなかったのか、ルイズはウェールズの背を狙わせまいとしているように立ち尽くす。

 その時、ワルドが初めて長大な詠唱を行った。高速呪法を用いぬ、本式の詠唱。間違いなく、強大な威力を秘めた大魔法の発動を示すものであった。彼の杖に、閃光が走る。ばちばちと音を立てながら幾重も杖を取り巻いて、やがて鉄杖は強大な雷の槌となった。
「婚約者であった君への、せめてもの餞だ。我が最大の魔法、『ライトニング・クラウド』にて始祖の御許へ送ってあげよう。……怒りの雷に焼かれ、無様に焼け焦げた死に様を晒せッ!」

 ウェールズは死を覚悟した。おそらく、放たれた雷は自分もろとも勇敢な少女の体を焼き尽くし、瞬時に絶命させるだろう。だが、それになんの不満があるだろう。己は既に死を覚悟した身、その時が今だっただけの事。しかし許し難いのは一人の少女がそれに巻き込まれて死ぬという事実だった。トリステインからの勇気在る客人、自らの愛する人の友人にして、己の矜持に全てを捧げる少女。その命が散らされるなど、どうして許容出来ようか。なんという、理不尽。
 せめて杖があれば、と歯噛みする。そうすれば、せめてミス・ヴァリエールだけでも――。
 
 大きく杖を振り上げたワルドは、勝利を確信していた。てこずらされたが、これでチェックメイト。ようやく終焉を告げようとしている局面に、安堵と満足感がこみ上げる。
 それが油断となったのだろう、彼は己に襲い来る一撃――固く握られた、岩の拳――をかわす事が出来なかった。それは容赦なく彼の脇腹を抉り、体をくの字に曲げさせた。
 彼を攻撃したのは岩ゴーレムだった。再び組み上げられたそれは、先程のものの数倍に及ぶ程の俊敏な動きを以って子爵の体を激しく打つ。それはさながら鍛え上げられた拳闘しの一撃のようだった。
 ゴーレムは一体に止まらない。それはウェールズと戦っていたもう一人のワルドの下にも現れる。激しい拳打を浴びせかけ、その姿勢を崩す。
 ウェールズはその隙を逃さなかった。受身を取るようにして転がり、彼が手にしたのはルイズが落とした――蹴り飛ばした際に、落としたであろう――小さなタクトであった。
 
 ウェールズがタクトを手にしたのと同時に、岩ゴーレムが人型より崩れ去り、元の瓦礫に姿を戻した。この僅かな魔法行使で、ルイズは全ての精神力を使い果たしたのだ。これが、彼女の死力を尽した最後の一撃だった。
 思わぬ奇襲も終わり、絶好の攻め時であったはずのワルド子爵は、しかし、驚愕に思考を支配され、動く事も忘れただ呻いた。
「馬鹿な……杖無しで魔法を使うだと!? 有り得ん、そんな事は有り得ん!」
 杖を振るうように掲げられたルイズの手には――何も握られてはいなかった。馬鹿な、こんな馬鹿な。メイジは杖無くして魔法を使う事は出来ない。それが世界の理。だが目の前の現実は、それを凌駕していた。ワルドは初めて、この小さな許婚の存在に僅かばかりの恐怖を感じた。
 
 ウェールズが素早く魔法を紡ぐ。唱えたのは「ウィンド・ブレイク」。しかしそれはワルドが放ったような荒々しいものとは違う。力強く、それでいて優しく、風はルイズの体を包み込み、崩れ去った壁より外へと彼女の体を運んでいった。
 ふわり、と浮き上がった刹那、定かでなかったルイズの目の焦点が結ばれ、驚愕の表情を浮かべる。
「殿……下……」
「ありがとう、ミスヴァリエール」
 ルイズの目に映る皇太子は、笑っていた。柔らかく慈愛に満ちた表情で、風に運ばれる少女の姿をずっと見送っていた。
「君に、幸運の風が吹かん事を」
 薄れ行く意識の中、もう大分離れてしまったはずなのに――その声だけがはっきりとルイズの耳に届いた。
 
 風はきっと彼女を大地に送り届けるだろう。どうか生きて欲しい、とウェールズは願う。ミス・ヴァリエール。君は死ぬべきでは無い。マリー・ガラント号の乗組員達がこぞって彼女を讃えたのも、今ならば解かる。彼女は、真に貴族だった。気高く誇りのままに生き、それを貫き死んで行く。このような者、この時代にそうは居まい。こんな自分の為に死ぬべきで人では無い。こんな、たった一人の男の為に浪費されて良い命では無い。だから、生きて欲しい。始祖よ、どうか彼女に幸運の追い風を授け給え。
 

 ウェールズは、ゆっくりと立ち上がる。右手に握ったのはルイズが錬金した剣、左手にはルイズが残したタクト。如何なる奇跡であろうか、彼女が作った剣は、彼女が全ての力を使い果たした今であろうと崩れる事は無かった。
 ――私は、一人では無い。今もこうして、彼女と共に戦っている。
 満身創痍の体のその奥に、勇気が灯る。疲労に侵された四肢が再び力を取り戻して行くのを彼は感じた。
 
「やっと観念しましたか、殿下」
 二人のワルドが、ウェールズを挟み込むようにして対峙する。己の算段が思うように行かなかった為だろう、声には苦々しさが滲み出ていた。
「……今の私の心底が解かるかね、子爵」
「さて、絶望しているのか、諦観を覚えているのか」
 ワルドの受け答えは、既に調子を取り戻しているかのようだった。何処か人を馬鹿にしたような口調。だが言葉の裏に不信が潜んでいる事を、ウェールズは見抜いていた。
「君は、自らを愛し、慕う者を裏切り……それに止まらず侮辱の限りを尽くし、殺そうとした。そのような下郎に感じる感情など一つしかあるまい」
 低く、それでいて重い声だった。優面からは想像も出来ないような、まるで獣の唸りのような声が、ウェールズの口から放たれていた。
「これ程までの怒りを感じたのは、生涯初めてのことであろう。もはや限界だ、ワルド子爵! この国の皇太子として、男として、貴様のような外道の輩を許しておけん! 絶望だと? 諦観だと? そんなもの微塵も感じるものか! 今頭に在るのは唯一つ、貴様だけはこの命に代えても斬り捨てる、ただそれだけだ!」

 怒りに身を任せ、ウェールズは己が纏っていた豪華な上着を脱ぎ捨てる。その下から現れたのは、凡そ風貌からは想像出来ぬ鋼の体。戦う為に鍛え上げられた、一切の無駄を省いた体だった。その筋戦意の悉くが激しく収縮し、みちり、と音を立てているようだった。
 ウェールズがゆっくりと構える。体はやや半身にしながら剣を持つ右手を前に突き出し切っ先を向け、左手は右拳の後ろ、まるで剣の柄の後ろに並ぶように添えられた。槍を構えるかのようなその姿は、長く戦場を渡り歩くワルドですら知らぬ未知の構えであった。
 ――知らぬ、このような構え、知らぬ!
 確実に、有利であるはずの状況で――ワルドの背中に、冷たい汗が伝った。
「我が名は」
 ウェールズの名乗りが高らかに響く。
「我が名はウェールズ・テューダー。アルビオン王国の皇太子なり! この首、取れるものならとってみるが良い。だが、そう安くは無いぞ!」
「吼えるではないか、皇太子」
 ワルドも釣られるように哂う。
「若造が、苦しんで死ぬのがお望みらしいな! ならば望み通りにしてやろうではないか!」
「出来るものか卑劣漢!」
「ほざけぇぇぇ!」
 鉄杖と、剣が同時に突きだされ、激しく金属のぶつかり合う音が――まるで会戦を告げる鐘のようであった。


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by: * 2008/06/25 02:54 * [ 編集] | page top↑

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