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夜天の使い魔 幕間01(25.5話)

ある国の、ふたりのおうじさまのおはなし

 ガリアというとてもおおきな国には、ふたりのおうじがいました。
 兄の名はジョゼフ、弟の名前はシャルル。
 青い髪をした、ふたりの美しいおうじさま。

 弟のシャルルはとても凄い魔法使いでした。子供のときから大人よりも凄い魔法をたくさん使えるようになって、まわりの人たちはみんなすごいすごいとシャルルをほめたたえました。またシャルルはとても優しい性格をしていて、お城の人たちはそんなおうじさまの事が大好きでした。

 兄のジョゼフは魔法が全然使えませんでした。貴族も王族も、魔法が使えるのがあたりまえの事です、みんながジョゼフを駄目なおうじだと馬鹿にしました。ジョゼフはそれが悔しくていっしょうけんめいにがんばりました。ジョゼフはたくさん勉強をして、誰よりも物知りになりました。剣をもてば戦士よりも強く、弓をもてば狩人よりも正確に矢を命中させることができるようになりました。チェスのうでまえでは、国のだれもこのおうじにかなう人はいません。ジョゼフはがんばって他のだれにもできないようなことがたくさんできるようになりました。それはとてもとてもすごいことだったのに、たったひとつだけ、魔法が使えなかったからそれでもジョゼフはみんなに馬鹿にされ続けました。
 それがかなしくて、ジョゼフはじぶんの心をとじこめてしまうようになりました。
 そしてジョゼフはシャルルをうらやましがるようになりました。すごい魔法が使えて、誰からも好かれている、そんなシャルルがうらやましくてたまりませんでした。じぶんの欲しいもを、シャルルはぜんぶ持っていたからです。

 でも王さまはジョゼフがシャルルよりもたくさんのものを持っていることを知っていました。それはとてもすごいことで、いい王さまになるのに大切なことだとおもったのです。だから王さまはじぶんのあとに王さまになるのはジョゼフだと決めました。

 シャルルも王さまとおなじように、ジョゼフはすごいお兄さんだと知っていました。そしてこのがんばりやさんなお兄さんのことがだい好きだったから、つぎの王さまがジョゼフにきまってとてもよろこびました。

 でも、そんなふたりのきもちはジョゼフにはとどきませんでした。ずっとふかいところに心をとじこめてしまったからです。
 
 ジョゼフはよろこぶシャルルの顔をみて、どす黒いきもちがわきあがりました。王さまになるのはとてもすごいことです。もしじぶんが王さまになれば、シャルルはきっとじぶんのことをうらやましがるにちがいないとジョゼフはおもっていたからです。
 ジョゼフもシャルルのことがだいすきでした。だからこそ、ジョゼフはシャルルに、うらやましがってほしかったのです。じぶんがシャルルをうらやましいとおもうように、じぶんのことをうらやましいとおもってほしかったのです。

 それなのに、シャルルはぜんぜんうらやましがってくれなかったから、それがつらくて、かなしくて、そのうちにくいきもちがわいてきたジョゼフはついにシャルルを殺してしまいました。

 自らの弟を弓で射抜いた瞬間の感情を、ジョゼフは生涯忘れる事は無いだろう。嫉妬、憤怒、憎悪、それらが叩き付けられた刹那の歓喜と、シャルルが倒れ伏した時の悲しみと絶望を。
 憎かった。余りにも優しく、自らの戴冠を祝う弟の美徳が。ハルケギニア一の国の王となる権利を奪われたのに、笑顔を浮かべるシャルル。それがどれ程憎らしかったか。
 だから、殺した。感情赴くままに。
 だが――死に行く弟の姿を目にした時、憎悪と並ぶ程の悲しみを彼は感じた。天才と称されるまでの魔法の腕前と、誰からも愛される人柄に嫉妬を覚えていたのは確かだ。しかし、それでもやはり彼はたった一人の弟が大好きであったのだ。ガリアの王宮内、親ですら無能と蔑む中、彼と対等に向き合ってくれたのはシャルルたった一人だったのだから。
 そんな世界にたった一人だけの理解者を、自らの手で殺してしまった。これ程の絶望は他にあるだろうか?

 その瞬間、ジョゼフにとって世界は灰色に包まれた。無味乾燥な、退屈な牢獄と成り果てたのだ。それを紛らわす為に、世界を手玉に取ってゲームをしかけてやろう、彼がそう決意した時――。

 彼の前に「魔女」が現れた。


 トリステインの南に位置する大国、ガリア。国土の広さはトリステインの数倍を遥かに超える程広く、その人口はハルケギニア一。魔法技術も発達しており、メイジの数も多いこの国はまさにハルケギニア随一の強国であった。
 この強大な国を束ねる中枢は首都リュティスの郊外に存在するヴェルサルテイル宮殿である。多種多様な文化を取り入れ作られた豪華な建物が立ち並び、広大な庭園はこの大地に存在する様々な花々で美しく彩られ、見る者を圧倒し感動を呼び起こす程の素晴らしさを備えていた。そんな庭園の中で一際大きく目を引く、青いレンガで建築された建物があった。名はグラン・トロワ。ガリア王家特有の青い髪にちなみ名付けられたこの場所こそ、広大なガリアの地を治める男の住まう居城であった。

 グラン・トロワの奥深くに存在する一室、暗闇に覆われた室内の中で、二人の男女はそれを見ていた。
 一人は壮年の男。豪勢な装束に身を包み、面白そうに顔を歪めながら目の前に写る光景を拍手喝采し狂乱している。
 一人は壮年の女。黒いローブに見を包み、男とは対照的につまらなさそうにそれを見ていた。
 二人の視線の先には、ある光景が映し出されていた。中空に浮かび上がるその映像は、激しい戦いを繰り広げる一人の少女と艦隊の姿を映し出していた。
 二人の間に備え付けられているテーブルの上には、チェスボードが乗っていた。差している最中のそれを、男はひっくり返す。チェスボードとチェスの駒が空中に投げ出され散乱し、部屋中に飛び散った。
 
「ははは、どうだ! 磐石と思われたこの勝負がたった一つの異分子の所為で全て覆ったぞ! 面白い、面白いではないか!」
 もしこの男の様子を見ている者が他に居たら、ああなるほど、と納得したかもしれない。国の内外から無能と称されるジョゼフ王その人であったからだ。強国ガリアの王にして魔法も使えぬ愚鈍な王と名高い「無能王」。
 彼は政務にも大して熱意を示さず、一日中遊び呆けていると専らの噂であった。魔法が殆ど使えない上、政治も出来ぬ無能者、それが対外的な彼の評価であった。
 だがこの国の中枢に居るものならば誰もが知っている。そんな風評は偽りに過ぎないと。
 
「余り喜ぶべき事態では無いわ。あれは私達の計画に大きな支障をきたす存在よ。排除するか、取り込むか、早急になんらかの対策を取るべきよ」
 女性の声は冷ややかだ。冷たく、深く、そして恐ろしい響きを持った声だった。
「我が『魔女』よ、あの正体が判るのかね?」
「ええ、正確なところはともかく、予測はつく」
 彼女は戦闘の一部始終を余すこと無く見ていた。その最中に展開された三角形の魔方陣は紛れも無くベルカ式魔法のもの。
 ベルカ式魔法。近接戦闘に特化され、一対一ならば無双の戦闘能力を誇ると言われているが、その使い手は既に殆ど居ないとされていた。まさかこのような僻地に使い手が潜んでいたとは、と彼女は驚きを隠せない。
 それに、と彼女は思考を続ける。ベルカ式魔法に使われる魔導デバイスは「アームド・デバイス」と言われる近接武器を模したものであるはずだ。だがあの少女の持つ杖はとてもアームド・デバイスには見えない。何よりアームド・デバイスに特長的なカートリッジ機構――魔力の籠められた弾丸を用いる事により、一時的に爆発的に魔力を高める機構――が内蔵されている素振りが見られない。
 彼女は思い出す、ベルカ式にはアームド・デバイスの他にもう一つ、特徴的な形態のデバイスが存在すると言う事を。取り扱いが困難であり、事故が多発したため闇に葬られた禁断のデバイス。――ユニゾン・デバイス。遥か過去に失われた技術であるはずのそれであるなら、色々と納得出来る。
「つまるところ、あれは」
 時の狭間に忘れ去られた技術が、次元の狭間に消えたはずの自分の目の前に現れるとはなんという皮肉だろう、と彼女は唇の端を歪め笑った。
「私の同類よ」
「ほほう、とするならば差し詰め二人目の『魔女』の出現か。これは本当に面白い事態になってきたようだ」

「そんなにはしゃいではいられないわよ? あれが今後も敵対してきたら恐ろしい事になる」
 女は、映像に写る少女の力を相当なものと推察した。多数の竜騎兵を手玉に取る空戦能力、広域に及ぶ強大な魔法攻撃、何より強力な魔力砲弾を防ぎきった、その魔力量。戦闘能力という意味に於いては、間違いなくこの世界で最強と言える存在だと言い切る事が出来る。文字通りの一騎当千、千人どころか万を超える軍を差し向けても立ち向かう事は不可能だろう。敵に回すには恐ろしい存在だ。

「ふむ、偉大なる魔女の力を以ってしても不可能だと? ヨルムンガンドでも太刀打ち出来はしないのか? あの圧倒的な力であっても」
「あんなもので対抗しようなんて馬鹿のする事ね。並のメイジ相手では傷一つ付けられないでしょうけど、あれの攻撃の前では土人形に等しいわ」
 その「魔女」の言葉にジョゼフは驚きを隠せなかった。
 ヨルムンガンドは、現在彼等が開発を進めている戦闘用ガーゴイルだ。その戦闘能力は強力無比、あらゆる攻撃を跳ね返し全ての魔法を無効化し戦場を蹂躙する鬼神とも言える存在だった。ハルケギニア中の勇士が集おうと、このヨルムンガンドを倒す事は不可能だと彼は思っていた。それが彼の存在の前では雑魚に等しいと女は断言したのだ。

「やるなら虚無系統の一斉射撃が有効でしょうね。『爆発』の魔法は座標指定攻撃が可能だから、シールドを抜いて直接対象に攻撃が可能ですもの。あとはバリアジャケットを貫通させるだけの火力があれば確実に落とせる。空に30、地上に20で50人位居ればなんとかなるかしら? 少し虚無量産の方を急いだ方が良さそうね」

 思案する魔女の言葉を聞きながら、ジョゼフは一人唇を歪める。虚無の量産。この言葉を聞く度にジョゼフは心に暗い愉悦を覚えるのを止められなかった。彼が魔女と手を結んだ理由はここにあった。
 神をも凌駕する、悪夢のような知識を持った魔女は、伝説を遥かなる高みから引き摺り下ろした。今や虚無は伝説では無い。魔女の手により、誰もが使えるくだらぬ一系統に身を窶したのだ。それがジョゼフにとっては堪らなく痛快なのだ。
 魔女が虚無の力を解析し再現して見せた時、胸がすくような思いの中彼は気付いたのだ。
 ――ああ、俺は始祖を憎んでいたのだ、と。
 始祖が虚無なんてものを残さなければ、自分が無能と蔑まれる事も無かった。きっとシャルルを殺す事も無かった。あのブリミル・ヴァルトリが余計な事さえしなければ、きっと全てはうまく行っていたはずなのだ。
 だからこうやって虚無が写し取られ再現され、その伝説が貶められた時、かつてない程の喜びを覚えたのだ。ブリミルに唾を吐きかけたようで、本当に痛快だった。
 だが足りない。もっとだ、もっと貴様を穢してやりたい。そんな欲望がジョゼフの中に生まれた。おれの幸せを奪い、総てを捻じ曲げたブリミル。ならば貴様が残し計画した全てを捻じ曲げて奪い去り復讐してやる。

 虚無が伝説と言うなら、どこまでも貶めてやる。誰も彼もが虚無を使えるようにしてやろうでは無いか。
 聖地を奪還するのに虚無の力が必要だと言うのなら、虚無を使わずに聖地を奪ってやろう。貴様が虚無より一段下に置いた四系統の魔法で、それを為してやる。貴様の浅慮を嘲笑ってやる。
 そして貴様が残した三つの王権、これも全て消し去ってやる。

 最早彼の心に退屈は無い。胸の奥底で燃え盛るのは決して尽きぬ復讐心のみ。このゲームだけは負けられない。生涯全てを憎む事に費やしても、まだ憎み足りぬ程に憎い者が相手なのだから。
「ブリミル・ヴァルトリ……遥かな天上から見ているが良い。貴様がおれにしたように、おれも貴様から奪って、穢して、全てを台無しにしてやる」


幕間・終

第二部「三人の魔女」へ続く



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