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夜天の使い魔06話

 ――その後の顛末。
 ルイズは二日後に目を覚ました。
 体中の痛みに悪態をついていたものの、その様子は大怪我をしていたとは思えないほどに元気そうであったと言う。ただ、楽しみにしていた「フリッグの舞踏会」に出る事が出来なかったので大層落ち込んだが。
 
 ミス・ロングビルは結局戻ってこなかった。教員数名が森の奥の廃屋のあった場所へと向かったが、そこには無残にばらばらになった小屋の破片と盛り上がった土しか無かったと言う。三人の証言を聞く限り限りなく怪しく、彼女がフーケとなんらかの関係があったのでは無いかという結論に至った。その風体は王室衛士隊に伝えられ、今も捜索が続けられている。
 
 ルイズ、キュルケ、タバサの三人は破壊の杖奪還の功績を讃えられ名誉が送られた。ルイズとキュルケにはシュヴァリエの爵位が、タバサには精霊勲章がそれぞれ授けられた。確かな功績の証であるそれらに、ルイズとキュルケの二人は飛び上がらんばかりに喜んだが、タバサだけは何時もの調子であったそうだ。
 
 破壊の杖は再び宝物庫に収められた。穴の開いた宝物庫の壁もすっかり元通りになって、事件の面影はまったくと言って良い程なくなってしまった。
 
 学園を揺るがしたフーケ侵入事件は学院の全ての人に大きな衝撃を与えたものの、その割には大した影響も与えず、日々は何時もと変わりなく過ぎ去っていった。
 
 コルベールの最近の日課は、教師にのみ閲覧が許された図書室「フェニアのライブラリー」で調べ物をする事である。調べている内容は、「使い魔のルーンについて」。彼は先日ルイズから見せられた彼女の使い魔に刻まれたルーンが気になっていた。使い魔自体が類を見ない程に特殊であるが、ルーンの方もかなり特殊なものだと見受けられた。
 自分の研究も疎かにする訳には行かず、暇を見てはちまちまと調べて早一週間。彼は遂に答えに辿り着いた。

 神の左手、ガンダールヴ。
 あらゆる武器を使いこなし「神の盾」と称された始祖の使い魔。
 
 これは大変な発見だ、とコルベールの心が興奮に満たされる。伝説が、現代に蘇ったと言うのか!
 しかし直ぐにその熱は収まり、代わりに怜悧な判断が思考を支配した。
(これは誰にも知られてはならない)
 思い浮かぶのは教え子の使い魔の姿だった。ただでさえ本という特異な使い魔であるのに、この上伝説のルーンを持つ等と露見したならば、確実にそれを狙う者達が現れるだろう。有り得ない事の二重奏だ、それこそアカデミーの良い餌となるに違いない。ならば、なるべく情報の拡散は防いだ方が懸命だ。オールド・オスマンへも報告するのが筋なのであろうが、コルベールはそれをしない事に決めた。この事実を知るのは自分だけで良い。心の奥底へ仕舞っておくのだ、誰にも知られ無いように。強い力は強い欲望を生み、その結果は不幸でしかないとコルベールは思い知っていたのだ。
 彼にとって大事であったのは、知識欲でも、伝説でも無い。ただ、生徒が幸せに日々を過ごしてくれるならそれに越した事は無いと、そう思っているからだ。
(だが……)
 コルベールは嫌な予感がした。
 伝説などと言うものが顔を出すのは、大抵禄でもない事が起こる前触れだ。何故ならそれは必要とされたからこそ現れるのだから。
 出来るなら杞憂であって欲しい、そう心の底から願った。
 伝説などただの気紛れであって欲しい、と。
 

 心地良い安らぎが心を満たしている。
 頭を優しく撫でられる感触が、気持ち良い。
 ルイズはゆっくりと目を開け、それと共に自分がどういう状況にあるのか、おぼろげな思考の中段々と把握してくる。
 ――誰かに、膝枕されてる。
 僅かに首を傾け、一体誰にこうされてるのだろうと見ようとする。
 女性だ。目につくのは長い銀髪。顔立ちも麗しく、その表情は慈愛に満ちていた。
「あなた、だれ?」
 そのルイズの問いに、女性はおかしそうにくすくすと笑う。
「もう、何が可笑しいのよ」
 むう、と頬を膨らませるルイズ。
「いえ、その……最初に仰る言葉が、何時も同じなものですから」
 ――何時も?
 その発言に首をかしげる。ルイズの記憶ではこの女性とは初対面だったと記憶しているからだ。しかし、そのはずなのに何故か親近感と安心を覚えているのもまた確かな事だった。
「わたしは貴方に会った事があるの?」
「はい。もう何度も」
「でもわたし……覚えていないわ」
「それは仕方の無い事です。この場は貴方の心の奥底、言わば夢の狭間の世界。一度目を覚ませば、ここであった事は泡沫のように消え行くだけなのですから」
「要するに夢の世界って事」
「その通りです」
「そっかあ、夢かあ」
 あっさり納得出来た。
「じゃああなたもわたしが夢の中で作り出した人なのかしら」
「いいえ、私は――貴方に仕えるものです。貴方の傍に侍り、あらゆる艱難辛苦を退け御身をお守りし、その願いを叶えるものです、我が主」
 その言葉には言い尽くせぬ程の敬意と親愛の情が込められていた。
 あまりに大仰であったので、ルイズは何処かこそばゆい感情を覚えた。常にゼロだとけなされる事はあっても、このように誰かから敬われるという経験は殆どなかった為だ。
「そっかあ……じゃあわたし頑張るわ。良いご主人様になれるようにきっとがんばるから」
 女性は微笑みでそれに応える。
「ずっと、こうして居たいわ……」
 本当に、とても心地良い。夢の中でさらにまどろみ、その幸せを有らん限り享受していた。
「私も同じ気持ちです、我が主。……ですが、醒めない夢はありません」
「目を醒ましたら、全て忘れてしまうの?」
「おそらくは」
「なんだか、寂しいな」
 この気持ちを失ってしまうのは、とてもとても悲しいとルイズは思う。
「寂しさを覚える必要はありません」
 ルイズの小さな手にそっと、女性の手が重ねられる。それはとても暖かく、柔らかく、ルイズの手を包み込んだ。
「忘れないで下さい。私は、何時でも貴方の傍に在ります。私は、貴方の――」

 ルイズの目が醒める。
 窓から差し込む光が眩しく、小鳥の囀りが少しうるさいような、何時もと変わらぬ朝だった。
 最近の目覚めは何故だか少し寂しさを覚える。とても幸せなのに、その中に砂粒一つ分位、ちょっとだけ寂しさが紛れ込んでいるような、そんな感じ。
 ルイズはベッドから起き上がると軽く体を動かす。怪我は治ったものの、この一週間ずっと床に伏せっていたので体が鈍っているようだ。
 ――今日から完全復活なんだから、頑張って行くわよ!
 おもいっきり気合を入れながら伸びをした。
 

 治療された後目を醒ましたルイズには、一週間の自室療養が言い渡された。傷は魔法と秘薬の力で塞がったが、完全な回復-失った血や臓器の損傷-にはそれ位の時間がかかると判断された為だ。
 
 この一週間、ルイズはとにかく暇だった。
 体を動かすと少し痛むが、動けない程では無い。しかし出歩いている姿を先生に見つかりでもしたら怒られるのは間違いない。仕方が無いので勉強して暇を潰す。生真面目なルイズが暇な時にする事と言ったらそれ位しか思い浮かばなかったのである。
 
 やがて授業が終わった頃の時間になると、やかましい隣人が尋ねてくる。
「やっほー、ヴァリエール。とっても良くお似合いよその包帯姿」
「はいはいありがとうねツェルプストー。で、何?」
「一日一回そのありがたいヴァリエールの包帯姿を見ないと落ち着かなくて。なんだかとってもご利益がありそうなお姿ですものおほほほほほ」
「こぉぉぉんのぉぉぉおぉぉさっさとでてけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 そんなやり取りが、ほぼ一週間毎日繰り返された。
 
 そんな苦労も遂に終わりを迎えた。
 医師の見立てでも問題無しと言われ、やっと学業に復帰出来る事になったのだ。
「良し、がんばるわよ!」
 授業が好きで好きで堪らない、という訳では無いがベッドに括り付けられているよりは万倍マシだ。
 いよっし、と気合を入れて部屋の外へ踏み出すルイズ。その後に本がふよふよと後を付いて行った。
 
 ふよふよと。
 
 ふよふよと……?
 
 ふよふよと!
 
「なななななななな、何か浮いてるーっ!」
 ルイズの傍らに、彼女の使い魔が浮いていた。ふよふよと重力を完璧に無視し、ルイズの肩位の高さの場所に漂っていた。
 それはもうルイズは吃驚した。変わっている本だとは思っていたが一人でに宙を浮くとまでは想像もしなかった。
 歩く。付いてくる。方向転換、くるりと転進。本も転進くるり。ぱたぱたと早足。本もふよよよよと早く飛ぶ。
 何をしても本は着かず離れずルイズの後ろとぴったりと着いて来た。
「……あんた、もしかして一緒に来たいの?」
 きらり、と本の表紙の十字が光る。
 そうだ、と肯定してるようにルイズには感じられた。
「解かったわ、貴方を連れてく。でも人前で浮くのは止めなさいよね。正直かなりびっくりするわ」
 本を掴み、小脇に抱える。
 この一週間で何があったのかしら、と本気で首を傾げる。ちょっと前まではこんな事は無かった。召喚してから暫く経つが、知れば知る程本離れした本だと言う事だけが良く解かってくる。
 ――まったく、本当になんなのかしらね、貴方は。
 心の中でルイズは苦笑する。
(主の後に付いて来たがるなんて、凄く使い魔っぽいわよ)
 使い魔に、使い魔らしいも何も無いもんだ、と思うとなんだか無性におかしくなって、自然と笑みが漏れだしてくるのだった。
 

 久々の授業一発目はミセス・シュヴルーズの土系統の授業だった。
 本日の授業もおなじみ錬金について。今日は土の塊を金属のゴーレムに変えるという授業だった。あの怪盗フーケが作り出すような巨大なものならともかく、大きさが小さいものであれば土を属性とするメイジ以外にも作り出す事は出来る。最も、多大な精神力を要するので実用には程遠く、やはりゴーレムの作成の花形と言えば土メイジに他ならないのであった。
 
「それでは、何方かに錬金してもらいましょう」
 ミセス・シュヴルーズがおっとりとした調子で語る。
 うーん、と思案しながら、誰にやって貰おうかと悩んでいる様子だ。やがてひとしきり悩んで誰を指名するか決めたのか、杖を軽く振りながら彼女が示した名は-。
「では、ミス・ヴァリエールにやって貰いましょうか」
 その瞬間、教室の空気が凍りつく。
 確かに、最近は実技で爆発させる事は無くなった。だが成功率ゼロなのは変わらない。その事はミセス・シュヴルーズも良く解かったはずだと思っていたのに、何故指名するのだろう。そう、皆思っていた。
 
 一方、ミセス・シュヴルーズがルイズを指名したのは生徒との認識の食い違いも勿論あった。彼女はルイズの事を成功率ゼロだなんて露程も思ってはいない。ただ今は努力が実を結んでいないだけなのだと考えていた。だから失敗を恐れずにどんどん実技に挑戦して行って欲しいと、そう思っていたのだった。病み上がりに指名するのは少し可哀想かもしれないが、ずっと床に伏せっていたと話を聞いていたので、こうやって杖を振って鈍った腕を取り戻すべきだ、という考えもあった。
 
 そうしてルイズは教卓に立つ。
 ミセス・シュヴルーズの授業でこうして実技を行うのは二回目だった。前回は失敗してしまった。なら今回もまた、失敗してしまうのだろうか。不安がルイズの心に広がる。
 爆発こそ本の効果で収まっているものの、相変わらず魔法の成功率はゼロのままだった。今に至るまで、唯一度の成功も-サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントを除けば-無かった。
 だけれど、とルイズは心を奮い立たせる。
 失敗を恐れていては成功する事なんて無い。失敗するという不安に屈するなど、誇りある貴族の生き方ではない、ただ成功すると信じ、杖を振れば良い。
 
 朗々と呪文を唱えるルイズの声が教室中に響き渡る。
 やがて呪文が完成し、杖が振り下ろされた。
 
 そしてそこに、皆は信じられないものを見た。
 教卓に置かれた土の塊が盛り上がり、徐々に形を作っていく、それは人型だ。ずんぐりとした人型が、形作られ、その色を変えていく。
 果たしてそこに出来上がったのは小さな銅のゴーレムの姿だった。
「まあ、なんと素晴らしい!」
 ミセス・シュヴルーズが感嘆の声を上げる。
「非の打ち所の無い完璧な錬金です! 素晴らしいですよミス・ヴァリエール!」
 ルイズはその光景にぽかんと口をあけたまま固まっていた。
 成功した。
 わたしが、錬金を成功させた。
 そして固まっていたのはルイズばかりでは無い。教室の面々もまた同様であった。あのゼロのルイズが魔法を成功させた! 皆信じられない、と言った様子で近くの者と顔を見合わせる。誰もがこれを現実の事だろうかと疑っている面持ちであるようだった。

「ミス・ヴァリエール。そのゴーレムを貴方の思うように動かして御覧なさい」
 ミセス・シュヴルーズの声ではっと我に返るルイズ。
 もう一度、杖を振るった。
 ゴーレムが歩く。走る。飛び跳ねる。倒立をする。華麗にダンスを踊り始める。全てはルイズの意のままであった。
 
「操縦も見事なものですね、ミス・ヴァリエール。やはり貴方は大変な努力家ですね、短い間でよくもここまで実力を高めました。貴方は素晴らしいメイジの卵ですよ」
 ミセス・シュヴルーズの感激もひとしおだ。常に陰口を叩かれていた生徒の努力が実を結ぶ瞬間をこの目で見届けたのだ。教師にとってこんなに嬉しい事は無い。目尻には、軽く涙すら浮かんでいた。
 
 ルイズもまた感動に打ち震えていた。遂に、遂に魔法を成功させた。これで誰も自分をゼロと呼ぶ者は居なくなる。今までずっと耐えて耐えて耐え続けて、きっと成功すると自分を励まし続けてきた甲斐があった。心の中は万歳三唱のエンドレスである。ばんざーい、ばんざーい。
 席に戻った後も自然と顔がにやけてしまう。もう笑いがとまらない、絶好調といった面持ちだ。その授業の間は終始そんな感じだった。
 
 放課後、中庭にルイズは居た。
 ご機嫌絶好調だったルイズだが、ふと考える。
 あれは奇跡だったのではないか? もしかして単なる偶然なのではないか?
 今までが今までなのでそんな不安が拭い去れない。
 それに最近は成功した!と思って失敗だったみたいな事が多い。ぬか喜びはもう沢山だ。
 だから彼女はここに来た。もう一度魔法を使う。その結果がどうなるのか、それで全てが決まる。
 ルイズは呪文を唱え始めた。「レビテーション」の魔法だ。
(お願い、成功して!)
 祈りを込めて杖は振り下ろされた。
 
 ルイズの体が、静かに中空へと浮き上がる。間違いない、これはレビテーションの効果に違いなかった。ふわり、と浮き上がる感触がこのように楽しいものだとルイズは初めて知ることが出来た。
「やった……わたし、遂にやったんだわ」
 自然と、涙が零れ落ちた。
 もうゼロのルイズじゃない。これで、本当の自分になれたんだという喜びが満ち溢れてくる。
 ずっと悔しかった。悲しかった。辛くて、胸が張り裂けそうな事もあった。でもただ誇りだけを胸に耐えてきた毎日だった。それも遂に、終わる。
 ふよふよと本がルイズに擦り寄ってくる。まるで彼女を祝福するかのように。ルイズは、己の使い魔を力いっぱい抱きしめた。
 思えばこの本が始まりだった。初めての成功と共に喚ばれた本。爆発を抑えてくれたのもこの本だった。この本が使い魔になってから全てが上手く行きだしたと今更ながら思う。
「貴方はきっと幸運を運ぶ本なのね」
 ルイズにはそう思えてならなかった。主の為に物も言わず幸運を運んでくる、何よりも素晴らしい使い魔。自分の知らない内に、尽していてくれたのだと。
「……ありがとう」
 自然と感謝の言葉が口を突いて出た。
 彼女の使い魔は何も応えない。
 しかし彼女の耳には聞こえた。優しく懐かしい声が彼女を祝う声が、確かに聞こえたのだった。


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