スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-- : -- : -- | スポンサー広告 | page top↑

夜天の使い魔04話

 森を貫く道は段々と細くなり、遂には馬車では通れなくなってしまった。
「ここからは徒歩で行きましょう」
 そう言って先に進むミス・ロングビルを先頭に三人は森の中へと入ってゆく。そうして暫く歩いただろうか、やがて一行の目の前に開けた場所が現れた。そこは中々に広々としており、大体学院の中庭と同じ位であろう。そしてその中央に廃屋はあった。屋根や壁は一目で判る程ぼろぼろで、長年手入れをされていない様子であり、誰も住む者が居ない事を外観が物語っていた。

 四人は木陰に身を潜めながらその廃屋の様子を伺う。
「話によれば、あそこにフーケが潜伏していると」
 確かにここならば隠れ家には絶好だろう。誰もこんな場所に隠れているとは思うまい。
 
「提案がある」
 そう言うとタバサはちょこんとその場に座り、落ちていた枝を用いて絵を描きながら己の考えを説明し始めた。
 まず偵察役が小屋の様子を探る。もし中にフーケが居たのなら偵察役は即囮へと転じ、フーケを挑発。
 怒るフーケは囮役を倒さんとして外に出てくるはずだ。土系統のメイジが相手を殺傷しようとするならゴーレムを作るのが一番である。それには土の豊富に存在する室外に出る事が必須である。かならず外に出てくるはずだ。
 そうして外に飛び出てきたフーケに外で待機していた者が魔法の集中砲火を浴びせフーケを無力化、これを捕らえるという寸法である。

「なら偵察役は私ね」
 ルイズがそう名乗り出た。
 彼女は自分がこの中で明らかに足手まといだと自覚していた。なら魔法も使えない自分が出来る精一杯の仕事をしようとそう考えていたのだ。そう考えていたルイズにとってまさにぴったりの役柄だった。
「……巧くやりなさいよ、ヴァリエール」
不機嫌そうにキュルケが言った。
「ふん、ツェルプストーに言われるまでも無いわ」
 答えるルイズもまた、不機嫌そうに言った。
 言われるまでもない、「ゼロ」だろうと巧くやってみせる。
 そう言葉が続いたように、キュルケには感じられた。

 ルイズは足音を殺しそっと廃屋に近付いていく。さっと薄汚い板壁に身を寄せると、そこについている窓から中を覗き込んだ。
 部屋の中央には粗末なテーブルが置かれており、埃が降り積もっている様子からしてやはり人は住んでいないようだ。脇には椅子が転がっている。部屋の奥には崩れて使い物にならないであろう暖炉と薪が幾つか。その薪の脇には木製の大きなチェストが置かれている。こうやって見渡す限りでは人が居る様子は無いし、隠れられる場所もなさそうだった。
 
 ルイズは両手を掲げると交差させて皆にサインを送った。
 フーケ居らず、という事である。
 そのサインを受けて他の三人も小屋に近付いてきた。
 タバサがディテクト・マジックをドアに掛ける。
「罠は無いみたい」
「ならまずはこの家の中を調べてみましょ」
 キュルケの提案にルイズとタバサが肯いた。
 ミス・ロングビルだけは
「私は念のため辺りを偵察してきます」
と言って一人森の中へと入っていった。

 残る三人は廃屋の中へと足を踏み入れる。床に一歩踏み出すとに埃が舞って、少女達の喉を苦しめた。
(これだけ埃が積もっているなら)
 ルイズは廃屋の床を見やる。彼女の予想した通り、床には何物かが出入りしたかのような足跡が無数に残されていた。
「フーケ……かどうかは解からないけど、誰かが出入りしたのは間違いないわね。しかも最近」
「そうみたいね」
 足跡はくっきりと残されていた。つまり最近誰かが出入りした、と言う事である。
 そしてその足跡はある場所へと伸びていた。
「どうやらこのチェストを置いたのは足跡の主みたい」
 足跡はドアから真っ直ぐチェストへと伸び、また折り返しほぼ同じ部分を踏んで戻っていったようだった。
 キュルケが無造作にチェストへと向かう。彼女は木箱に鍵がかかっていない事を確認するとその蓋に手を掛け、開ける。
「これは、どうやら大当たりかしら」
 キュルケはその中から何かを取り出す。それは鉄で作られた筒のようなものであった。
「それって破壊の杖!?」
 ルイズは思わず声を上げた。

 彼女が魔法学院に入学してすぐ、新入生達に学院にどういう施設があるか実際に行って見学してみるという行事があった。勿論その施設の中に宝物庫も入っており、普段は拝む事の出来ない貴重な宝の数々を見る事が出来たのだった。中でもこの破壊の杖はオールド・オスマンが得意気に解説をしたので良く覚えている。
「こいつは破壊の杖、と言ってのう」
 破壊の杖を片手の上機嫌で薀蓄を語り始めるオスマン。
「ワイバーンでもかるーく一撃で倒してしまえるようなすんごい魔法をなんと!無詠唱で使えるというスグレモノじゃ」
 話を聞く生徒達がおお、と驚きの声を上げる。ワイバーンは竜種の中でも格下と言える種であるが、それでも人の身では太刀打ちするのが困難な生き物である事には変わりない。それを一撃、しかも無詠唱で倒すとはとんでも無いマジックアイテムであった。
「まあ持ち主が死んでしまって使い方が解からないんじゃがの」
 一気に場の空気が盛り下がった。
 その様子にちょっとだけオスマンは泣いた。
 
 勿論、キュルケもタバサもその場に居たのでこれが破壊の杖である事は誰もが一目で理解した。
「なんか拍子抜けねえ」
 キュルケの言う通りだと、ルイズもその考えに追従する。
 余りにもあっけなさ過ぎる。まるで、そうまるで-誰かがこうなるように仕組んだかのように。
 ルイズの脳裏に疑問が浮上したその刹那-。
 彼女達の居る小屋の屋根が吹き飛んだ。
「あれは……ゴーレム!」
 キュルケの叫びに釣られるように、ルイズは背後を振り向いた。その視界一杯に写るのはまるで山のようにそびえ立つ、巨大な土ゴーレムの姿だった。巨体は空を覆い隠し、まるで天が地になったかのような錯覚を引き起こす。間違いなく、それは昨夜学院を襲ったゴーレムと同じものだとルイズには解かった。彼女は心の中で歯噛みした。
(やっぱりこれは、フーケの罠!)

 その自体に即座に反応したのはタバサであった。
 素早く呪文を唱え、応戦する。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
 ウィンディ・アイシクル。無数の氷に矢を作り出し攻撃する、タバサが最も得意とする呪文の一つである。
 数十にも及ぶ氷の矢は主が命じるままに土巨人へと叩きつけられた。勢い良く放たれたそれは表面を穿ち、めり込むものの-恐るべき巨体にとっては左程問題ではなかったらしく、なんら損害を与えた素振りが見られなかった。
 
 続けてキュルケも魔法を放つ。
 直径50サントはあろうかという巨大な火球、フレイム・ボールの魔法だ。当たれば人一人を焼き上げる事など造作も無い、キュルケの得意とする呪文だった。
 しかし-身の丈30メイルはあるだろう巨体の前には、小さな石礫に等しく、ゴーレムの表面を軽く焼き焦がすだけで終わった。

「無理よこんなの!」
 各々の最高とも言える魔法が、まるで通用しない。もはや手段は全て断たれたに等しいと、キュルケは焦りを募らせる。フーケは真実風評通り、恐ろしい実力者だと痛感させられた。
 
 ゴーレムが拳を振り上げる。人の身長程もあるそれが唸りを挙げて空へと引き絞られていった。明確に、此方を狙っている動作だった。
「退却」
 その声を契機に、三人は弾けるように出口へと向かう。キュルケに至っては邪魔だと言わんばかりに破壊の杖を放り投げて-鉄で出来ているだけあってなかなかに重いのだ-脱兎の如く逃げ出した。
 三人が飛び出るや否や、拳が廃屋を貫く。廃屋はまるで紙の細工のようにあっけなく貫かれ、辺りにその残骸を散らしていった。

 キュルケは無意識のうちにごくり、と喉を鳴らす。もしあれが自分達に当たったとしたら、ひとたまりも無いだろう。体中の骨という骨がばらばらになって無残に死ぬ様を想像したキュルケは、ぶるり、と身を振るわせた。そして今自分達は命を賭けなければならない事態に直面していると、否応なしに理解した。
 まずは、距離をとらなければ。キュルケはひたすら全力で走る。まずは森の中に紛れてしまえば、こちらの位置を確認し辛くなるはず。そう考えたのだ。
 
 一方のタバサも全力で走りながら上空を見やった。その視線の先に居たのは彼女の使い魔、風龍シルフィードの姿であった。タバサは最悪の事態を見越して密かに馬車の後方より追いかけさせていたのだ。
 風龍は主人の姿を見つけると一直線に滑空し地を目指す。そのの名に恥じぬ風が舞うような美しさを感じさながら滑らかな動きでタバサの横に滑り寄る。タバサはその背に飛び乗ると次いで目に入ったキュルケの元へと向かった。
「乗って!」
 感情を余り見せない彼女の焦っている姿は、親友を自負するキュルケですら殆どお目にかかった事は無い。事態は最悪に近い、その証左に相違無かった。
 キュルケは差し出された親友の手を取り風龍の背へと飛び乗る。次はルイズだ-最後に残された一人の姿を探し視線を巡らす二人が彼女を見つけた時、各々の目が驚愕に見開かれた。

 その光景は余りにもばかばかしく、余りにも高潔で、余りにも彼女達の想像の範疇から逸脱していた。思考は停止し、心はただ驚嘆を産み出すのみだった。
 
 150サント程しかない小柄な少女が、30メイルを越える巨人の前に立っている。怯えの一つも見せず、堂々と。その右手には鉄の筒-破壊の杖を携え、左手には彼女の使い魔が抱かれていた。その目に宿る覚悟は何物をも寄せ付けぬ意思の光を湛えて、眼前の敵を見据え続ける。
 
 そこには如何なる不条理にも屈しないという誇りがあった。
 
「馬鹿……何やってるのよゼロのルイズ! あんたなんかにどうこう出来る相手じゃないわ!」
 キュルケは知っていた。ルイズ・フランソワーズという少女が如何に誇り高く生きようとしているのかを、良く知っていた。彼女は魔法という力で劣る分、何者よりも誇り高く生きる事でそれを補おうとしている、そういう少女なのだと。
 しかしまさかここまでやるとは、予想を遥かに超える暴挙であった。最早勇気を超えて蛮勇としか形容しようがない馬鹿げた行為でしか無かった。
「さっさとこっちに来なさい! 逃げるわよ!」

 だがルイズは動かなかった。
「もし」
 そしてキュルケの言葉を意に介さないように、己の言葉を続ける。
「もし破壊の杖が本当にオスマンの言うようなものなら……わたしでもこのゴーレムを倒せるかもしれない」
「でもその杖、使い方が解からないんでしょ」
「どんなに奇妙な形でも杖は杖よ。ならきっとわたし達にも使えるはず」
 ルイズは破壊の杖を掲げると、高らかに叫ぶ。
「破壊の杖よ、その力を現しなさい!」
 しかし――ただ彼女声が空しく響くばかり。何も、起こりはしない。
 
 その行為を嘲笑うかのように土巨人の拳がルイズに迫る。
 間一髪、跳ね飛ぶように横っ飛びをしてそれをかわす。巨大な土の塊が轟音を立てて思うよりもずっと速い速度で空を薙いで行く様は、ルイズの心に恐怖を湧き上がらせた。
 しかし己の意地がそれに勝る。
(貴族たるもの、敵に後ろはみせないのよ!)
 小さな体を必死に動かし、次々と襲い来る拳をかわしながら懸命に破壊の杖を振る。だが少女の努力空しく、破壊の杖は何も応えてはくれなかった。

 キュルケとタバサの二人を乗せたシルフィードは空へと舞い上がる。この状況でルイズを乗せるのは不可能だ。なんとかしてゴーレムの隙を作り、無理矢理背に乗せて逃げるしかない。
 タバサが放つエア・ハンマーがゴーレムを襲った。巨大な風の戦槌が一瞬巨体を怯ませた。
 さらにキュルケの作り出した駄目押しのファイヤーボールがその顔面を捉え、さらに動きを止めんとする。
「もう気が済んだでしょルイズ! さあ、逃げるわよ!」
 キュルケの声には大きな焦りが含まれていた。
 余りにも真剣な声色に、ようやくルイズも諦める気になったのか、悔しそうに顔を歪ませるとゴーレムから離れるように走り出そうとした。
 しかし、決断は一歩遅かった。
 怯まされたお返しとばかりの勢いで振りぬかれた土の拳が、遂にルイズの体を捉えた。小さな体は空高く舞い上げられ-ただそのまま、どさりと地に落ちた。
「ルイズ!」
 キュルケの叫びが、深い森に木霊した。

 その光景を木陰に身を潜めながら眺める者が居た。
 ミス・ロングビル-土くれのフーケだ。
「どうやらアテが外れたみたいだね」
 やれやれ、とかぶりを振って小さく嘆息する。彼女の狙い、それは「着いて来た三人に破壊の杖を使わせる」事にあった。破壊の杖を盗んだは良いものの、この奇妙な鉄の筒状の杖の使い方がさっぱり解からなかった。呪文を唱えても普通の杖の代わりにすらならない。どうやら何か特別な手順を用いなければこの杖は効果を発揮しないらしい。なら知っている者に聞くとしよう。
 
 彼女は一芝居打つ事にした。土くれのフーケの居場所が解かった、と。単なるスケベジジイに見えるオスマンも実態は体面を重んじる貴族に他ならない。そんな彼があそこまで派手な手段で盗みを働いた相手を野放しにするとは考え辛かった。潰された面子を取り戻す為、必ず自らの手でこの破壊の杖を取り返しに来るだろう、そう彼女は読んだ。
 予想外だったのは、想像以上に魔法学院の教師達が及び腰だった事だ。トライアングルクラス以上のメイジも多数在籍しているのだから誰かは食いついてくるだろうと思ったのに、まさか一人も志願しないとは。フーケは口先だけの教師陣に対し侮蔑の念を感じる事しか出来なかった。結局生徒が来る事になったが、魔法学院の生徒だ、もしかしたら使い方を知っているかもしれない。そう期待はしたものの――。
「やっぱり生徒じゃ駄目だったか。何とかして教師が付いてくるように仕向けるべきだったのかもしれない」
 なにせ急遽仕掛けた罠だ、粗が在り過ぎた。破壊の杖がこんなに厄介な代物だと知っていたなら、きちんと使用法も探りだせるように動けていたのに。事前の情報収集がちょいと甘かったか、と反省をするフーケだった。
 
「さてこうなった以上、可哀想だけどあんた達を無事に帰す訳にゃ行かなくなったよ」
 実に残念だ、とでも言うようにフーケは呟いた。今は緊急事態故に思考が巡ってはいないだろうが、一度落ち着いてしまえばあの三人がミス・ロングビルをフーケと結びつけて考えるのはほぼ間違いないだろう。何せ一人だけ行動が不審すぎる。
 だから不本意ではあるが-死んで貰わなければならない。勇敢な三人は怪盗に立ち向かい、立派に勤めを果たして死んだ。自分は彼女達に助けられてなんとか逃げ延びる事が出来た、そういう筋書きでなくてはならないのだ。
 フーケの顔が皮肉気な笑みを形作る。
(何時も死ぬのは誇りになんてしがみついている奴からなんだよ、お嬢ちゃん達)
 貴族は、誇りを貫く奴から死ぬ。生き残るのは、何時でも薄汚く立ち回る奴だけだ。彼女はその事を身に染みて理解していた。
 
 まずは地上に居る娘を人質にでも取ろうか? そうすれば否応無しに空の二人もこちらに釘付けになるはず。あとはきっちり順番に始末を付けていけば何も問題は無い。
 フーケは己のゴーレムに指示を出す。あの娘と捕まえろ、と。
 
 だが、その場に居る全ての者の思惑のズレが少しづつ重なっていって-事態は最悪の展開を見せた。
 フーケはルイズがそのままゴーレムの攻撃を避け続けるだろうとと判断し、彼女の行く先を遮るよう指令を出していた。
 キュルケとタバサはゴーレムに攻撃が通じないと見てその体制を崩す事に専念した。そうやって、隙を作ろうとしたのだ。
 ルイズは、やっと観念して意地を張るのを止めた。そしてゴーレムから離れようと駆け出した。
 その結果全てが重なって起きたのは――。
 ゴーレムは、そのバランスを大きく崩しながらも主の命を全うしようと手を伸ばした。不自然な体制より伸ばされた腕は想定よりも遥かに加速をつけて、逃げ出そうとしたルイズの体に吸い込まれるように動いていって。
 不幸にも、少女の体を空に舞い上げた。

 まるで放り投げられた人形のように、呆気なく空に投げ出されていくルイズの様子が、やけにゆっくりと見えた。恐ろしい程美しい放物線を描いて、空から大地へと、ほんの一呼吸程度の時間だったはずなのに、それの何倍もの時間もたったようであった。
 そして上空に居ながらもルイズの体が大地に叩きつけられる音が、キュルケの耳にははっきりと聞こえた。
「ルイズ!」
 ゆっくりと大地に血が広がっていくのが見える。目は虚ろで焦点があっておらず、口からはごぼごぼと血を吐き出していた。力なく投げ出された肢体の内、ただ手だけが時折ぴくぴくと僅かに、懸命に動こうとしている様子が見て取れた。
「ルイズ! 早く立ち上がって! 逃げるのよ!……タバサ、なんとかしてルイズの近くに寄せて!」
 タバサは無言で肯く。
 シルフィードは懸命にルイズの元へと寄ろうとするが、襲い来るゴーレムの腕がそれを許さない。
 一旦距離をとって仕切りなおそう、そう判断して間合いを広げるシルフィード。
 だが-十分に腕の届かない範囲にも関わらず、迫る土塊。不意を突かれ放たれたそれを避けられたのは、タバサ自身の経験によるものが大きかっただろう。ほんの少しでも判断が遅れていれば、二人と一匹は今頃地に叩きつけられていた事だろう。
 息つく暇も無く次ぎの土塊が彼女達を襲う。
「一体どうして!?」
 そこで二人は気付いた。
 ゴーレムの振り上げられた腕の、拳が無い。そしてもう一方の腕がぐるんと大きく一回りし-拳が、飛んで来た。
 
 これは昨日フーケが行った宝物庫破壊法の応用であった。振り回した腕に蓄えられた遠心力を持った拳を切り離し、投石器のようにして相手に放り投げ攻撃する。土の塊とは言え十分に固められたそれは凶悪な殺傷能力を持っていた。失った拳は地面から土を吸い上げて再生し、それによりほぼ無限に投擲を行う事が出来る攻撃法であった。
 
 次々と迫る土塊に、最早為す術は無かった。
 タバサの戦闘経験が、撤退推奨の一言を告げている。攻める手段はなにも無く、このまま回避行動を続けていても何れ落とされる。留まれば留まる程生存確率を低下させてゆくと冷静に判断していた。
 でも、と心の奥底で声がする。キュルケはまだ諦めていない。彼女は誰かを見捨てて逃げ出すような事は決してしないと。
 彼女は理性よりも心の声を選んだ。たった一人の友人の信頼を、裏切りたくはなかった。
 
 キュルケは必死に声を張り上げる。魔法を使う事も忘れ、ただひたすらに呼びかけた。切なる祈りのように、ただそれだけを繰り返した。
 そして、気付いてしまった。気付きたくない事実に、気付いてしまった。
(あのゴーレム……ルイズの方に向かっている!)
 ゴーレムは投擲を続けながらも、ゆっくりとルイズの元へと歩みを進めていった。心は焦り、急いた。一刻も早く彼女を助け出し、この場から逃げ出したいと。しかし現実は非情である。彼女らは空に釘付けにされ、ルイズは危機に瀕しようとしていた。やがてゴーレムが足を高く上げる。もう何をするかは明白であった。
「お願い……お願いだからやめてえええええええええええええ!」
 だが無常にも足は振り下ろされる。
 一瞬、攻撃が止み、その隙を逃さず、タバサは躊躇なく転進した。
「タバサ……戻って、ルイズが、ルイズが」
 キュルケの懇願に、タバサは諭すように応える。
「貴方にも判ってるはず。あれでは助からない」
 そう、あれだけ巨大なゴーレムに踏み潰されて生きている人間など、居ない。
 ――ルイズ・フランソワーズは今、死んだのだ。


前の頁の記述を読む  目次に戻る 次の頁の記述を読む
スポンサーサイト
22 : 03 : 06 | 夜天の使い魔 第一部 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
<<夜天の使い魔05話 | ホーム | 夜天の使い魔03話>>
コメント

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://rein4t.blog123.fc2.com/tb.php/37-0c397921
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |

プロフィール

夜天の人◆Rein4tm63s

Author:夜天の人◆Rein4tm63s

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

がらくたかうんたー

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。