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夜天の使い魔03話

 トリステイン魔法学院の長、オールド・オスマンの秘書にミス・ロングビルという女性が居る。知的で物静かな雰囲気を持った女性で、スタイルや顔立ちも麗しく男性教師の間ではかなり人気の高い人物だ。コルベールなどは見た目にも判り易い程熱を上げているが、本人は色恋沙汰には興味が無いとばかりにそ知らぬ顔で日々を過ごしている。
 
「さてさて、どうしたもんかねえ」
 そんな彼女が今居るのは本塔の壁面、丁度宝物庫の辺りであろうか。「フライ」の魔法を巧みに使いまるで壁を地面が如く扱い、重力に逆らいそこに立っていた。余り目立たぬよう慎重に歩き回りながら、時折靴で壁面を叩き何かを調べている様子であった。
「厚さ5メイルを越える壁なんて正気じゃないわ。作った奴の顔を拝んでみたいよ」
 一度顔を張り倒してやりたいね、と心の中で毒づいた。
「こんだけ強力な固定化がかかってたんじゃ錬金でちまちま掘っても埒が開かないけど、ここまで厚いんじゃゴーレムで殴って壊すのにも無理があるし……まったく、物理衝撃が弱点? 固定化破るよりは簡単でマシかもしれないけど、どっちもどっちって感じじゃないか」
 物騒な言葉を口走るロングビルの様相もまた、普段学院で見せているものとは違って、油断無い振る舞いと狡猾な表情を見せていた。
 
 ミス・ロングビルにはもう一つの顔があった。
 世間を騒がす大怪盗「土くれ」のフーケ、それが彼女のもう一つの名である。錬金を巧みに用い貴族達から価値有る品々を盗み出す彼女はトリステインの貴族達から非常に恐れられていた。
 そんな彼女の次の狙いこそがトリステイン魔法学院。狙う品は「破壊の杖」と呼ばれる稀少な杖だ。
 酒場で情報収集をしていた所でスケベジジイのオスマンに見初められていよく秘書になれたのは大きな幸運であったし、人の良いコルベールが宝物庫の事について口を滑らせてくれたのも僥倖と言って良い。しかし幸運もここまでのようだった。この先は「土くれ」としての経験と矜持、己の知恵が物を言う領域。トリステイン一安全と言われる宝物庫と、トリステインを騒がす怪盗との一騎打ちが今ここに始まった。
 
 この宝物庫に対する攻略法は三つ。
 一つ、オスマンの机から宝物庫の鍵を頂戴し、悠々と破壊の杖を持ち去る。
 この案は即座に却下した。このような盗み方、怪盗フーケには余りにもつまらなくて相応しく無い。
 
 二つ目、錬金によって固定化を打ち破り進入、破壊の杖を持ち去る。
 実は錬金で穴を掘って侵入、というのは決して不可能ではなかった。どんなに強力な固定化であろうと時間をかければ破る事は出来る。しかしこの場合この時間が曲者で、類を見ない程強力な固定化に加えて5メイルもの距離を錬金で打ち崩すのには非常に時間がかかると推測された。彼女の試算では、目立たぬ深夜に毎日掘り進んで約一月はかかるだろう、という絶望的な数字がはじき出されたのだ。そんなに時間をかけてちんたら仕事をしていたらどんなにボンクラでも異常に気付く。よってこの案も却下。
 
 三つ目、物理衝撃で壁をぶち抜き、破壊の杖を持ち去る。
 彼女の作り出すゴーレムは約30メイル、城の城壁だって殴り壊せる破壊力を持っている。しかしながら流石にこの常識外れの厚さの壁には分が悪い。一撃でも殴れば辺りに衝撃音が響き渡り、一発でばれる。故にこの手法を取る場合一撃必殺が求められた。だがこの壁を一撃で壊すのはトライアングルのフーケどころかスクエアクラスが作ったゴーレムですら不可能だろう。よってこれも却下せざるを得ない。
 
「こりゃヤバイね、想像以上に厄介だよ」
 その日はとりあえず自棄酒して寝た。
 

 八方塞がりの状況に陥ったフーケ。
 しかしこの程度で諦める彼女ではなかった。こんなの出来ません、なんて甘っちょろい箱庭育ちの貴族みたいな事を言ってるようでは怪盗なんて務まらないのだ。

 その日、月明かりが照らす中、土の巨体と共にフーケは現れた。堂々と学院の防壁を乗り越えると、本塔の宝物庫へと巨腕を伸ばす。その拳の先に乗ったフーケは壁面が目的の場所だと確認すると、軽く杖を振った。
 その瞬間-驚くべき事に、強固なはずの壁面が土くれへと変わり、崩れ落ちて行くではないか! 果たして、そこに開いたのは直径及び深さ各々約2メイルの穴であった。
 それを満足そうな面持ちで眺めるフーケであったが、それも束の間、直ぐに次の段階へと駒を進める。
 
 ゴーレムを一歩後退させると、その拳を丸ごと鉄へと錬金する。拳の大きさだけで彼女の背丈を越える、そんな多量の土を鉄へと錬金するのは多大な精神力を必要とした。体の力が萎えてゆく。
(しっかりおし、土くれのフーケ!)
 今ここで膝を折ったなら、なんの為に今まで雌伏してきたと言うのか。スケベジジイのセクハラに耐えて耐えて耐え忍んで来たのはただ一瞬、この時の為のはずだ。
(怪盗フーケの大仕事……しっかり見せ付けてやらなきゃね!)
 気力を振り絞りフーケはゴーレムに指令を飛ばす。
 ゴーレムは即座にそれに従った。己の腕をゆっくりと回転させる。巨大な鉄の塊はごうんごうんと恐ろしい風きり音を立て、徐々にその速度を上げていった。
 
 疾走する馬車の車輪の如く、激しく回転したそれがはちきれんばかりの力を蓄えた時――一気に穴の開いた壁面へと叩きつけられる。
 静かな夜闇の中響き渡る轟音。
 魔法学院の誰もが聞いた事の無いような、恐るべき破壊音であった。その衝撃は音のみならず大地をも揺らし、安らかな眠りを享受していた者達は皆例外無くそこから引き戻され、一体何事かと思考を停止させた。
 
 何物にも屈しない強固さを持った壁面に、亀裂が入る。びしり、という音と共に放射状にそれが波及して行った。しかしまだ壁は崩れない。流石はトリステイン一強固と謳われただけの事はある。
(一度で駄目なら、もう一度!)
 巨大な土くれは再び破壊の風車と化した。今度は先程よりも一段と回転が速い。
 フーケが杖を振り上げる。息は上がり、明らかに限界が近付いていた。この一撃で決まらなければ最早為す術は無い。
 しかし彼女の顔は笑っていた。それは勝利を確信した物の顔であった。目が語っている、既に私は勝利している、と。
 フーケが杖を振り下ろす。まるでそれが巨人の拳であるが如く。
 そして再び破壊音と振動が学院を襲った。

 一度目は眠りの中で聞かされたそれを、起きて聞くのは皆始めてであったろう、激しい振動と共に襲い来るそれに恐怖を感じ、誰もが己が身を抱きすくめ恐怖に震えるしかなかった。
 しかし数少ない例外が居た。その内の一人こそがルイズである。大好きなクックベリーパイをお腹一杯食べる夢を見ていた所、その幸福を打ち破られた哀れな被害者であった。
 目を覚まして何事か、と思案するのが一瞬。
 今のは夢だったと理解したのが次の一瞬。
 せっかく良い夢見てたのに!と怒り心頭したのが次の一瞬。
 何か尋常では無い事が起きて目を覚ましたとは理解したものの、一体それが何であるのか思案していた所……再び起こる破壊音。
 彼女の人生で未だ聞いた事の無い轟音に思わず耳を塞いだ。
「一体なんだって言うのよ、戦争でも始まったの?」
 即座に窓辺に寄り身を乗り出した。
「何これ……」
 ルイズが驚くのも無理は無い。見慣れた学院の本塔の壁は見るも無残に壊されており、開いた壁面には巨大な土ゴーレムが手を差し入れていた。余りに非日常的なその光景を前にただ驚く事しか出来ないルイズであったが、気を取り直すとばっと部屋から躍り出た。
(何処の誰だか知らないけれど、一言文句でも言わなきゃあ腹の虫の収まりがつかないわ!)
 彼女は己の感情の赴くままに駆け出した。
 
「破壊の杖、確かに領収致しました。土くれのフーケ、と」
 限界近い疲労も目的を達成した喜びの前には些細な事でしかなく、意気揚々と己のサインを壁に刻み付けてゆくフーケ。
 今回の一件は単なる物取りに終わるものではない。トリステイン一強固な魔法学院の宝物庫を破ったと言う事は、即ちトリステインの如何なる守りも彼女の前には意味を成さないのと同義である。己の名に貴族が震え上がる様を想像すると笑いが止まらない。
 破壊の杖を収められたケースを手にしたフーケはそのまま夜闇の中へ融けるように消えて行った。
 
 翌日、学院長室で烈火の如く怒り狂うオールド・オスマンの姿があった。難攻不落と言われた宝物庫を破られただけでなく、彼にとって単なる宝以上の価値がある破壊の杖が盗まれたのだ。
「フーケの奴め……トライアングルクラスと言う噂じゃったが己の実力を隠しておったのか。忌々しい盗賊め」
 老人はそう吐き捨てる。
 集められた教師達も風評を越えたフーケの働きに恐怖を感じていた。あの宝物庫をゴーレムで破るなどスクエアクラスの力であっても困難だ。それをいとも容易くやってのけたフーケは有数の土系統のメイジであるだろうと推測を膨らませていたからだ。
 しかしこれは彼らのまったくの思い違いである。フーケは巷で噂されるようにトライアングルクラスでしか無い。しかし彼女には一般的な貴族には無い発想、創意工夫するという物の考え方が備わっていた。
 貴族というのは基本的に強者であり、戦場に立てば平民の兵を蹂躙し殺し行く圧倒的な上位的存在である。その優位を当然と享受するが余り、彼らは工夫を重ねるという考えを持っていなかった。彼らにとって強さとはかけ合わせられる系統の数であり、それ故にドット・ライン・トライアングル・スクエアの序列は絶対なものであった。
 
 しかし元は貴族の出とは言え野に下り平民達と付き合う事も多いフーケは、「同じ力でも用い方によって効果の程を上げる事が出来る」という事を実感していた。
 今回彼女が取った作戦は、力押ししか出来ない貴族にとっては思考の範囲外とも言える手法であった。
 まず行ったのは宝物庫壁面に対する錬金である。少しづつ削るように錬金で壁を土に変え-夜が明ける前に石に錬金し今度は自分で固定化をかける。こうすると一見まったく変化が無い様に装いながら「弱い固定化」の部分を作り上げる事が出来るのだ。そしてその部分をゆっくりと広げていき、半月もの時間をかけて2メイルもの穴を作り上げた。
 
 貴族はこういった気の長い作業を嫌う傾向にある。彼らにとって結果とは呪文を唱えてすぐに出るものであって、そうでなければ失敗とみなす。だから最初から人が通れる範囲を錬金しようとして「こんなに強い固定化がかかってたら錬金しても無駄」という思考に行き着く。しかしまったく効かない訳では無い。ほんの少し、握りこぶし程度の量ならば確実に錬金をかける事が可能なのだ。それを数多く、時間をかけて行えば……結果は既に出た通りである。
 
 だがこのやり方だけで掘り進むのには限界があった。手順としてまず壁面に錬金、次に生じた土を外により分け目立たないように固定化、ある程度掘り進んだら夜が明ける前に元に戻し再度錬金し固定化と非常に手間がかかる上、どんどん外により分ける土の量が増えていくのが問題だった。彼女の精神力で錬金しながら固定化を維持出来る分量と、壁面へと戻す作業時間を鑑み2メイル掘るのが限度と見切りをつけ、この作業は終了した。
 
 掘り進むのが無理なら、ぶち破るしか無い。
 しかし例え3メイルに減じた壁の厚さであっても彼女のゴーレムで打ち抜くのは困難だろう。威力が足りない。
 そう、足りないならば増せば良い。
 どうやって威力を増すか思案していた時、フーケが思い出したのはかつて共に仕事をした事のある盗賊の事だった。彼はスリングと言われる道具を好んで用いており、
「こいつをこうやって回して石を放るとな……まあこういう具合になる訳さ」
そう語って石を放った先には頭をかち割られ絶命するメイジの姿があった。
 このような道具で回転を加えてやる事により、素手で投げるのとは比べ物にならないような威力を持った投石を行う事が出来ると彼女は知った。

 それなら、ゴーレムの拳も同じようにしてやれば威力を増す事が出来るのではないか?
 拳丸ごとを石ころに、腕をスリングに見立てて回転させてやれば、あの壁でも打ち破る威力を出す事が可能では無いか?
 結果は周知の通りである。
 
 単純な力押ししか想定していない貴族に対し盗賊の知略がそれを上回り、フーケは見事破壊の杖を手にする事に成功したのだった。
 

 さて次の日の朝、学長室では教師達の激しい責任の擦り付け合いが始まっていた。「衛兵が無能なのが悪い」だとか「当直のミセス・シュヴルーズがサボっていたのが悪い」だとか「本塔に近い部屋の奴は何故すぐに出てこなかったんだ」とか散々な様相を呈していた。
 これでは埒が開かん、とオスマンが口を開いた。
「責任があると言うなら、この魔法学院に賊が侵入するはずが無いと驕っていたわしら全員にあるじゃろ」
 確かにそうだ、と渋々ながら皆納得した様子だった。確かに誰一人として想像した事すら無かった。まさかこれだけのメイジが居る施設に堂々と侵入し真正面から宝物庫を打ち破るような、そんな非常識な泥棒が居るなどとは。
「まずは犯行の現場を見ていた者達の話を聞こうかの。確か何人かの生徒が眼にしていたとか?
「ええ、若干名ですが」
 コルベールが応える。
 
 現行当時、殆どのものが窓を覗く事すら出来ずただ震え上がっていたのみだった。しかし何事にも例外は存在するもので、あの恐ろしい音が響く中勇気を以ってその光景を見届けた者達が数少ないながら存在した。その中には無謀にも外に飛び出していったルイズを始め、キュルケやタバサの顔も見られた。2年生は他には居らず、あとは3年生の生徒が何人かと言うところか。
 ちなみに、情けない事だが教師の中で目撃したものは皆無だった。中には調べ物に夢中で気にならなかったという者まで居たとか。
 
「最も間近で犯人を見たのはミス・ヴァリエールだったそうじゃの。では彼女から詳しく話を聞こうか」
 ルイズは一歩進み出ると、昨晩見た光景の事を放し始めた。
「まずとても大きな音で目が覚めました。今まで聞いた事が無いような音で……。すぐに窓から外を見たら、巨大なゴーレムが腕を振り上げて本塔に殴りかかる所でした。そしてまたあの大きな音がして、宝物庫の壁が壊れて……。わたしはすぐに部屋から飛び出しました。急いだんですけど、やっと外に出たときにはもうゴーレムは学院から逃げ出そうとしていました。肩にはフードを被った黒いローブ姿のメイジが一人居たんですけど、後姿しか見えなかったのでどういった顔立ちをしているかとかは判りませんでした。ゴーレムはしばらく歩いたかと思うといきなり崩れ始めてしまいました。わたしもゴーレムの後をおいかけていたんですけど、その場にあるのは土の塊ばかりでローブのメイジは影も形もなくて」

「ふむう……手がかりはまったく無し、と言ったところか」
 顎鬚を撫でながら思案するオスマンであったが、ふと何かに気付いたようにその手を止める。
「ときにミス・ロングビルはどうしたね?」
「それが、朝から姿を見せませんで」
「この非常時に一体何をしておるんじゃ」
 だがその時、まるでその会話に合わせるかのように、ミス・ロングビルが学院長室に飛び込んできた。
「ミス・ロングビル! この大事な時に一体何をしていたのですか!」
 そんな誹りもまるで気にせず、ロングビルはオスマンの前まで歩いてゆくと己が何をしていたのか告げた。
「この大事な時だからこそ、迅速に行動を起こしていたのです。事がフーケの仕業と知ってすぐ、私は調査を開始しました。奴も焦っていたのでしょう、あっさりと情報を手に入れる事が出来ました」
「何が判ったというのじゃ、ミス・ロングビル」
「フーケの、居場所です」
 フーケの居場所が割れた! この情報に室内が色めき立つ。
「近在の農民に聞き込んだところ、近くの森にある廃屋へと入って行く黒いローブの人物を見たそうです。おそらく、この人物こそがフーケでは無いかと思うのですが」
「黒いローブ! 間違いありません、それがフーケです!」
 ルイズが叫ぶ。黒いローブ……そんな怪しい人物、フーケに違いない。
「して場所は」
「徒歩でおよそ半日、馬なら4時間程といったところでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう!すぐに兵隊を差し向けて貰わなくては!」
 あとは王室衛士隊が捕らえてくれるだろう、きっとすぐに破壊の杖も戻ってくるに違いない。そう思いながらコルベールは提言したが、
「馬鹿もん! そんな事してたら逃げられてしまうわ! 何より魔法学院の宝が盗まれた以上これは魔法学院の問題じゃ。我らの手で解決せんでどうする!」
 凄い剣幕でオスマンに怒られた。
 
 これだけの腕利きのメイジが揃っていながらたかが盗賊を取り逃がしたとあっては魔法学院の沽券に関わる。また彼自身の問題として思い出深い品である破壊の杖が王室に押さえられるというのは何としても避けたい。オスマンが自らの手で事態を収拾しようとするのも無理からぬ事であった。
「では捜索隊を編成する。 我と思うものは杖を掲げよ!」
 しかしオスマンの声に応えるものは誰も居ない。
 相手はスクエアクラスのメイジであると予想された。そんな恐ろしい相手と戦う事になるかもしれないのだ。教師だって人の子、自分の命は惜しかった。
 
(ええい、この腰抜けどもめ)
 発破をかけてやろう、そう思った刹那すっと杖が掲げられる。
「ミス・ヴァリエール!」
 杖を掲げたのはルイズであった。
「あなたは生徒じゃないですか! ここは教師に任せて……」
「でも誰も掲げないじゃなですか」
 窘める声にルイズはそう反論した。
「わたしは公爵家の娘です。このような狼藉、わたしの誇りと家名に賭けて見過ごす事は出来ません」
 堂々とした口上にオスマンが「ほう……」と感嘆の声を漏らす。
 そしてさらに一本、杖が掲げられた。
「ミス・ツェルプストー! 貴方まで!」
「ヴァリエール家の者に遅れを取る訳には行きませんもの、ねえ?」
 不適な笑みを浮かべるキュルケ。
 さらに加わる杖が一本-タバサのものであった。
「タバサ、あんたまで来る事は無いのよ」
 そう言うキュルケにタバサは一言。
「心配」
 何時もの調子でそう答えるのみだった。
 そんな三人の様子を満足気に眺めるオスマン。
「宜しい。ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ優秀なメイジだと聞き及んでおる。ミス・ツェルプストーとミス・ヴァリエールの二人は各々ゲルマニアとトリステインの名門の出。盗賊如きに遅れを取る事はあるまい。魔法学院は諸君等の努力と貴族の義務に期待する」
 三人は杖を掲げると「杖に賭けて」と唱和し、優雅に一礼する。
「では馬車を用意させよう。ミス・ロングビル、道案内を頼んだぞ」


 こうして三人の学生と一人の秘書からなる捜索隊は結成された。
 学院より用意された馬車-というより荷車に近いものであったが-に乗り、一路フーケが潜んでいるという廃屋へと向かう。

「しかしあんたも後先考えないわよねえ」
 キュルケは心底呆れたようにそう言った。
「魔法も満足に使えないのに何しようって言うのよ」
「あの状況で杖を掲げないなんて貴族の恥よ」
 への字口でルイズは応えた。。彼女にしてみればあの状況で杖を掲げない教師達が理解出来なかった。
(自分達の学校が襲われたのよ……自分達でどうにかしようと思わないなんておかしいわ!)
 真正面からゴーレムで宝物庫を襲うなんて、完全に魔法学院を馬鹿にしているとしか思えない。そこまでやられて臆病風に吹かれるような生き方はしたくない。何時だって誇り高く、それがルイズ・フランソワーズの生き方だ。
「はいはい、足手まといにだけはならないでねー、出来るなら邪魔しないように馬車で大人しくしてて」
 馬鹿にしたようなキュルケの物言いに「なんですってええええええええええええええ!」と怒り心頭のルイズ。
 
 一方キュルケは心の中で頭を抱えていた。
(本当に後先も何も考えてないんだからこの娘は!)
 気位の高さが災いして失敗をするのが何時ものルイズの行動パターンである。これが授業程度なら笑いものにして済ます程度で終わるだろうが、今度の場合は相手が相手である。場合によっては命に関わる。
(あたしとタバサでなんとかするしかないか)
 タバサの実力の程は知っている。なにせ全力で戦いあった事もある間柄だ。強力な風の使い手であるタバサと火の使い手である自分と、その二人の力がフーケに通用するだろうか?
 力で劣っていても数では勝っている。その優位点を生かして立ち回るしかないだろう。勿論ルイズが下手な事をしないように手綱をしっかりと握っていなければならない。
(これは予想してたよりも断然にハードな状況かも)
 段々眩暈がしてくるキュルケだった。
 
「そうだタバサ、この間はありがとう」
 キュルケに馬鹿にされて頬を膨らませていたルイズだったが、先日の事を思い出しタバサに声をかける。
 一人本を読んでいたタバサは顔を上げると
「どういたしまして」
 と一言発すると再び本に目を落とした。
「あら、意外。あんたとタバサって知り合いなの」
 キュルケから見て、この二人に接点があるとは想像もできなかった。
「この間図書館で調べものを手伝ってくれたの。とても助かったわ、本当にありがとうタバサ」
 彼女は今度は顔を上げずにこくり、と小さく肯きそれに応える。
「タバサはねー、とっても良い子なんだから」
 キュルケはむぎゅーっとタバサに抱きつくと「良い子良い子」と頭を撫でる。
 ルイズから見たらキュルケとタバサが友達だと言う方がよっぽど意外に思えた。自由奔放なキュルケと物静かなタバサ、まるで水と油のような二人。一体どうやって親交を深めたんだろう? 疑問に思わずにはいられなかった。
 
 そうやって姦しく道中を進む内、鬱蒼とした森に道が差し掛かる。光の余り差し込まぬ暗い光景が自然と恐怖を誘う。いよいよフーケが潜むという廃屋に近付いてきたようだ。
 ルイズは不安を振り払うように、ぎゅっと自らの使い魔を抱きしめた。



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by: * 2008/06/23 16:37 * [ 編集] | page top↑

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