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夜天の使い魔01話

「ルイズ!」
 一瞬飛んだ意識が、何処か遠くから呼びかけるような声によって引き戻された。しかしまだ頭がはっきりしない。
(わたしは一体何をしていたんだっけ?)
 ルイズは必死に頭を働かせる。使い魔の召喚に「失敗」したけどなんとか進級は出来て、何時も通りゼロと呼ばれる毎日で、学院から破壊の杖が盗まれて、それから――。
 背中を襲う激痛、それと共に耳に届く鈍い音。
 ああそうだ、はっきり思い出した。わたしは破壊の杖の探索隊に志願して、破壊の杖を見つけたものの。
 
 突如現れた巨大な土のゴーレム――待ち伏せでもしていただろう、フーケが作り出したものに違いない――に殴り飛ばされたんだった。この背中の痛みは空高く打ち上げられて、そのまま叩きつけられた所為だ。このままでは危ない、早く逃げなくては、とルイズは考え体を持ち上げようとするが、今度は背中のものを越える激しい痛みが全身を襲い、指先をぴくりと動かすのが精々だった。
 
 遠くなった耳には、タバサの使い魔に乗ったキュルケが必死に逃げろと叫んでいるのが聞こえていたが、彼女の体はさっぱり言う事を聞かず、どうすることも出来無かった。
 
(わたし、死ぬのかなあ)
 全身を襲う痛みの中ゆっくり自分に迫ってくるゴーレム。上空からはキュルケとタバサが必死に魔法を放つも、その巨体の歩みを僅かに遅らせるので精一杯であるようだった。そんな様子を眺めながら、自分自身でも驚くほど冷静にルイズは思う。死期を悟った人間は穏やかな気持ちになると言うが、成る程確かにそうだと思い知った。
 
 避けられない死を自覚しながらルイズの心には恐れも悲しみも余り無く、まるで凪のように心穏やかであったが――そんな中一つだけ心残りがあった。

(みんなみたいに、ふつうに魔法が使ってみたかった)

 どんなに下手でも良いからただ普通に魔法を使ってみたかった。ゼロと呼ばれずに日々を過ごしてみたかった。貴族たる誇りに恥じぬよう、立派に生きてみたかった。
 結局自分には魔法を使う事は出来なかった-そう思った途端、忘れられない光景が頭に蘇る。
 
 それは彼女の人生で唯一魔法が成功したとも、それよりも余計に酷い失敗だったとも言える人生最良で最悪の日、使い魔召喚の儀式の時の事だった。
 
 
「宇宙の果ての何処かに居るわたしの僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! わたしは心より求め訴えるわ! わたしの導きに答えなさい!」
 ルイズはありったけの願いとか希望とかブリミルへの祈りとか、とにかくお願い成功して!と切に杖を振り切った。
 何しろこのサモン・サーヴァントには進級が懸かっている。成功率がゼロだろうとこの時だけはなんとしても魔法を成功させなければならなかった。
 しかし――爆発。
 やっぱり失敗なの、と諦めかけたルイズの目は爆煙の中心にある「それ」を捉えた。
「……本?」
 それは一冊の本だった。皮の表紙には金色の十字があしらわれた古ぼけた本。これが、わたしの使い魔?
(って、そんな訳あるかー!)
「ミスタ・コルベール! これは何かの間違いです。もう一回召喚させて下さい!」
 そうルイズに問いかけられたコルベールの顔はどうしたものか、と思案顔で唸っている。
 
 正直な所、彼は目の前で起きたこの出来事をどうするか決めかねていた。せめて生き物を呼んでくれたなら平民だろうがすんなり契約する事を勧めていただろう。しかし召喚されたのは本である。言うまでも無く無機物だ。こんなものが使い魔と呼べる訳が無い。しかし。
 
(これは一体なんなのだろう? 少なくとも単なる本では無い)
 コルベールは、「それ」が呼び出されてすぐ危険なものかどうか判断する為にディテクト・マジックを使っていた。結果、判った事はただ一つ。
(なんて魔力を内包しているのだろう……こんなマジックアイテムは学院の宝物庫ですらお目にかかった事は無い)
 自分達の常識の範疇を越えた途方も無いマジックアイテムであるという事、ついでに少なくとも今すぐに発動して危険を及ぼすようなものではないという事位だった。一体どうしたら良いものか。
 そしてもう一つ、コルベールには気になる点が有った。
 
(コントラクト・サーヴァントには意思あるものが選ばれる)
 召喚の門を潜り抜けるものは、自らの意思でそれに応え主人の眼前に姿を現す。故に単なる無機物である本がこうして現れる事など有り得ないのだ。
 ならば――。
「……ミス・ヴァリエール、例外は認められない。召喚が成功している以上、君はこの本を使い魔としなければならない」

 その言葉に、目に見えて肩を落とすルイズ。
「……わかりました」
 ルイズはとぼとぼと本へと歩み寄ると、召喚の次なる手順-コントラクト・サーヴァントの呪文を唱え始めた。
 
「流石ゼロのルイズだ! 本と契約するらしいぜ」
「ゼロにはお似合いだな!」
 そんな嘲笑も彼女の耳には届いていなかった。
 こうなってしまった以上、ルイズは覚悟を決めていた。自らが行った結果を認められずして何が貴族か。本だろうが召喚は召喚、一応成功と言って良い。なら胸を張って契約してやろう。
 彼女はじっと本を見つめる。
(ちょっと期待外れだけど、それでもわたしにとっては初めての…成功)
 今までの人生、魔法を使えば全て失敗し爆発する事しか出来なかった彼女が残した初めての成功、その象徴がこの本だった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 小さな成功ではあるが、成功は成功。きっと次はもっと上手くやれる。
「五つの力を司るペンタゴン、このものに祝福を与え、使い魔と成せ」
 そんな希望を胸に、彼女はそっと十字に口づけた。

 唇が触れた瞬間、淡い光が本を包み――。
 ルイズはとても優しい声を聞いた気がした。
 
 クラスメイト達が皆フライで教室へ向かう中、からかいの声を受けながらも召喚した本を胸に抱きしめしっかりとした足取りで向かうルイズの姿を見ながらコルベールは思う。
(ミス・ヴァリエール。君がこの一年間どれだけ努力してきたのか私は良く知っている。誰よりも努力を重ねてきた姿を知っている。そんな君が呼びだした使い魔が、単なる本であるはずがない、そう私は信じている)

 契約を勧めたのは半分は同情であったかもしれない、なにしろ一度成功してしまった召喚をやりなおすとなれば留年は必至だったからだ。努力家である彼女にそうさせてしまいたくなかったという気持ちも多分にあったろう。 しかしその一方で有り得ない事を成し遂げたその可能性に賭けてみたくもあったのだ。もしかしたら、彼女はとんでもない才能を秘めているのかもしれない、今はただ開花してはいないだけなのだ、と。
 
 この時のコルベールの判断こそが、ルイズにとっての全ての始まりであったとは当人ですら知らぬ事だった。


 改めて見ると、それは本当に奇妙な本だった。
 見た目からしてやたらと立派そうに見える。意外に小奇麗な皮の装丁をしたそれは、表紙の中央にあしらわれた金色の十字は月明かりを照り返し輝いていて、物凄い価値のある書物のような雰囲気を醸し出している。その一方、ぺらぺらとページをめくれば中に書いてあるのは訳の判らない言葉の羅列。そして何より白紙のページがあったり虫食いのように文字が飛び飛びに記述されているページがあったりしてその構成に脈絡が無く、ルイズの思考の及ぶ範囲ではなかった。
 
「きっとこの本を書いたのはそうとうな変人ね……」
 ランプの灯りの下ぺらぺらと本をめくりながら溜息をつく。
 どこぞの好事家にでも売り飛ばせばそれなりに高値で売れそうではあるが、流石にこれが使い魔になるとは思えない。彼女が求めているのはお金よりも使い魔である。ギブミーサーヴァント。
 
 さっさとこの本を燃やしてしまって召喚をやり直そうか、という考えが彼女の頭を過ぎったりもしたが、しかしどうしてもそれを実行に移す事は出来なかった。望む結果では無かったとはいえ初の成功の証を自らの手で処分する事ははばかられたのもあるが、それよりなんとも不思議な事だがこの本に対して不思議な愛着や安堵感を感じるという事の方が理由としては大きかった。本を抱きしめていると心が安らぐような気がするのだ。それはまるで彼女の大好きな姉カトレアと居る時のような満たされた思いを感じさせてくれるのだ。その為なのだろうか、この本を燃やしてしまうというのはとても悪い事をするような気がして、結局その考えを忘却の彼方へと押しやった。
 
 それにこの本は-なんと驚く事に-学院側から正式に使い魔として認可されてしまっているのだ。コルベール曰く「表紙裏にきちんと契約のルーンも刻まれている」らしく、形式的にはまったく問題が無いらしい。そうなった以上、気に入らないから処分してしまいました、新しい使い魔を召喚させて下さいなんて道理が通るはずも無い。少なくとも学院に居る間、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはこの本を使い魔として過ごさなくてはいけない。
 
(きっとまた馬鹿にされるんだろうな)
 自然と溜息が漏れる。自分から見れば大きな一歩、破格の成果と言えど他人から見れば失敗以外の何物でも無い。ゼロの呼び名もそのままにまた日々を過ごす事になるのだろう。
 
 いけないいけない、とルイズは頭をぷるぷると振って思考を切り替えた。
(一人で考え事をすると駄目ね、もう寝ましょう)
 当ても無くぺらぺらとページをめくっていた手を止め本をぱたんと閉じると、それを机の中央に置いた。召喚が思ったよりも体に負担を掛けていたのだろうか、それともやっと気が緩んだのか? 耐え難い睡魔が彼女を襲う。着替えも適当に済ませベッドに横になると瞬く間にルイズは眠りに落ちてしまった。
 

 ――右手に持つは杖、美しく光り輝くそれはまるで槍の如く。
 ――左手に持つは流麗なる剣。
 二つの武器を手に、一人彼女は戦場の空を舞う。
 
 大空を駆けるのは一人の少女だった。白と黒の二色で構成された法衣を身にまとい、長い銀髪をなびかせながら「フライ」の魔法で飛ぶよりも遥かに速く、鳥のように一直線に飛んでいた。
 
 向かう先に居るのはゴーレムの大群だった。どれもこれもが鋼で構成されており、身の丈20メイルを越えた体躯はまるで鋼鉄の鎧そのものが動いているかのようで、手には長大な戦斧を持ちその両肩には巨大な砲台が取り付けられていた。そのような異形の巨体が、一糸乱れぬ規律を以って彼女の元へと進軍してくる。その数軽く数百、いや千を越えているであろう。大地を踏みしめる度に数多の地響きを引き起こすその光景は恐怖以外の何物でもない。
 しかし彼女の顔にまったく怖れは無い。ただ真っ直ぐに前を見ていた。
 その悉くを威圧するように、意思ある瞳が巨人を貫いていた。

 少女が右手の杖を大きく掲げる。先端に白く淡い光を併せ持ったそれをゆっくりと、狙いをつけるように巨人の大群へと向け――。
 放たれた光が一気に数十体ものゴーレムをただの石くれへと換えた。この一撃こそが宣戦布告の一矢であり、これをもって戦端は開かれた。
 
 ゴーレムが背中の大砲より次々と光り輝く砲弾を浴びせかける。
 まるで地上より雨が降り昇るが如きその光景の中、少女は自由に空を舞い杖を掲げ光の槍で敵を撃つ。
 また時には激しい爆発を引き起こし敵を爆砕し、時に輝く剣にて砲弾を切り捨てながら敵に肉薄し、その巨体を両断する。
 文字通り一騎当千の強さを少女は秘めていた。
 
 巨人達は次々と数を減らし、朽ち果てていった。ただひたすらに戦って戦って戦い抜いて-遂に最後の一体を討ち果たしたその時。
 
「……はえ?」
 ルイズ・フランソワーズは目を覚ました。
 むくりと上体を引き起こし、ぼーっとした思考のまま窓の外を見る。明るい。とても明るい。紛うことなく朝である。部屋の中央を見る。たたむのも億劫で脱ぎ散らかした制服がそのまま床に散乱している。下を見る。何故か本がお腹の上に乗っていた。机の上に置いて寝たはずなのに。そうしてやっと事の次第に気付く。つまりさっきまでの光景は――。
「夢ーっ!?」
 だんだん意識がはっきりしてくると共に物凄い気恥ずかしさがこみ上げてくる。
(あああああああああんな夢をみちゃうなんて、べべべべべ、別にああいうのに憧れていた訳じゃないんだから!)

 そう、夢の中の少女はルイズだった。髪の色こそ違うものの、その姿は彼女そのものだった。彼女の似姿はまるで御伽噺の英雄のように夢の中を駆け抜けていった。
 ルイズもそういう話は子供の頃に聞いた事がある。母が良く聞かせてくれたのだ。どんな強大な敵にも怯まず向かっていく、勇者達の物語を。小さな頃のルイズはそんなお話が大好きだった。
 だがそれも子供の頃の話だ。妙齢の淑女となった今そんなものへの憧れを――まったく無いとは言わないが――持ち合わせては居ない。普通乙女は素敵な王子様を夢見る事はあっても剣を片手に戦場を駆け巡る夢は見ない。
 
(サモン・サーヴァントに成功しただけなのにすっかり舞い上がっちゃってるのかな)
 まあ魔法を使う夢を見るのは良い。しかし空を飛びながらどっかんどっかんゴーレムを破壊するような滅茶苦茶な夢を見るとは、もしかしてわたしって自覚してる以上にストレス堪ってる?とちょっと不安になるルイズだった。

 思考が一段落してふと気付く。それは自分の膝の上にちょこんと乗っている一冊の本の存在だ。言うまでも無く昨日ルイズが召喚した本である。
(確か机の上に置いておいたはずなんだけど……)
 確かそのはず、と思うものの昨日の夜はすっかり疲れ果てていて寝る間際の記憶はあまり正確ではなかった。
(覚えてないけどベッドに持ってきちゃったのね)
 そうルイズは一人納得した。当たり前だ、本が自分でベッドまで来るなんてことは有り得ないのだから。
 
 床に脱ぎ散らかされた制服に「やばい、皺になっちゃってる」とちょっとヘコみつつも手早く着替える。朝に余り強くない彼女にしては早起きした方だが、そんなに余裕のある時間でも無い。少し急いた気持ちでドアを開けようとして、それを思いとどまり踵を返す。ベッドまで戻り自分の使い魔を手にすると今度こそ勢い良くドアを開けた。
 
 勢い良く開けたは良いものの――。
「おはよう、ヴァリエール」
 いきなり一番会いたく無い相手と遭遇してしまった。
 
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。ヴァリエール家とは因縁浅からぬツェルプストー家の娘であり、その因縁そのままにルイズにとっても不倶戴天の敵-とまでは行かないまでも衝突する事の多い相手であった。
 
「おはよう、ツェルプストー」
 返事をしながら嫌でも目に入るのは彼女の使い魔の姿だ。もうこの時点でその後の展開が読めた。あまり友好的ではないとは言え、伊達に付き合いが多い訳では無い。
 
「あら? ちゃんと持ってきてるのね、その使い魔」
 キュルケの顔がにんまりとした笑顔に彩られる。
「絶対に失敗するだろうからそこら辺の本でも適当に持ってきたのかと思ったのだけれど……本当に使い魔らしいわねそれ。サモン・サーヴァントで本を喚び出しちゃうなんて前代未聞よ!流石ゼロのルイズ!」
 そう言いながら大笑いするその目には涙すら浮かんでいる。どうやら心の底から愉快な事態だと思っているようだった。
 
「使い魔を喚ぶならやっぱりこういうのじゃなくちゃ……フレイム~」
 キュルケの声にきゅる、と一声鳴いて応えたのは彼女に侍っていた使い魔-見事な体格の火蜥蜴であった。
「これって、サラマンダー?」
「そうよー。見て? この鮮やかで大きな炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」
 得意満面、誇らしげになるのも無理は無い。使い魔自身の風格は勿論の事、このように強力な使い魔を喚ぶ事が出来るのはそれだけ術者の実力が高い事の証明でもある。「メイジの実力を見るなら使い魔を見よ」と言われる位だ。
 ルイズは自分の両手で胸に抱いた本を見て、そしてキュルケの使い魔を見る。どう贔屓目に見たって見劣りしている。というより端から勝負になっていないとしか言い様が無い。
 
「べ…別に悔しくなんか無いわ。私の使い魔はそんな火蜥蜴なんかに負けない位凄いんだから!」
「……本が?」
「そうよ。なにか問題がある?」
 笑顔から一転、キュルケは真剣な表情になりルイズの肩に手を置くと-。
「ショックだったのは解かるけど……現実から逃げちゃ駄目よ」
 本当に心配そうにそう告げた。
「人を頭が可哀想な人みたいに言うなーっ!」
「だってねえ……本なのよ、それ?」
「本だって関係無いもん! ぜったいぜったい凄い使い魔なんだもん!」
 実は自分でも「それは無い、絶対」とルイズは思いながらも売り言葉に買い言葉、言ってしまった以上引っ込みがつかなくなってしまった。
 ちなみに現在のルイズの半分はツェルプストーへの対抗心で出来ております。残り半分は虚栄心とか後悔とか妄想とかその他色々。
「とにかく! 近いうちにこれが凄い使い魔だって見せてあげるわ!」
 キュルケにそう言い放つとルイズは半ば逃げるようにその場を後にした。これ以上変な事を口走ってしまわない内に撤退する事にしたのだ。
 どかどかと何時もより大股で歩いてゆくルイズの後姿を、キュルケは心配そうに見つめていた。

 彼女、キュルケ・フォン・ツェルプストーは別にルイズの事を嫌っている訳では無い。むしろ好きか嫌いかで言えば好きな部類に入る。彼女にしてみれば両家の因縁なんて大した意味は無い。ただちょっとルイズにちょっかいを出すのに都合が良いから利用させて貰っているだけだ。「からかえばからかう程ムキになる所が可愛らしい」というのが彼女の偽らざる本音だ。お高くまとまっている他のトリステイン貴族子女達よりもずっと良い遊び相手であった。ルイズの側も邪険にする素振りは見せるものの、自分の事は嫌っていないと肌で感じる事が出来た。傍目から見るよりも両者の関係はずっと良好であったと言えるし、付き合いも深いものだったと言えるだろう。
 
 だからこそ、キュルケはルイズが心配だった。
(どんなにみずぼらしくても、せめてちゃんとした使い魔が喚べていればねえ)
 心の中でそっと嘆息する。先日の召喚の儀式は一体どれ程彼女を傷つけたのだろう。せっかくの成功の喜びが束の間、喚んだのが本だったと知った時の絶望感は如何ほどであったのか。
 
 ある意味最も付き合いの深い彼女は、どれだけルイズという少女が努力を重ねて来たのか、良く知っている。最初に出会った時はコモン・マジックすら満足に出来ない無能なメイジだと思った。さらにあらゆる呪文を唱えれば爆発を引き起こす傍迷惑さまでオマケに付いていたのだから、無能と断じてしまうのも無理は無い事だったろう。しかしそんなキュルケの認識が一変したのは、ある授業の時の事だった。
 
 それは彼女の記憶の中にはっきりとした形で残っている。魔法学院に入学して二月もした頃に行われた風の魔法の授業での事だった。
 
「今日はフライの魔法を練習してみましょう」
 フライと言えば風の系統でも初歩の魔法だ。才能に秀でた優秀なメイジの卵ならば学院入学前に習得しているのも珍しくない、と言える程の基礎中の基礎でしか無く、難度はかなり低い。この魔法を使用できないメイジなどまずお目にかかる事は無いだろう。
 
 しかし、彼女は失敗した。
 何時ものように響く爆発音、あたりに満ちる黒煙、そしてそろそろ聞き慣れてきた彼女を罵倒する声。「ゼロ」という呼び名が付いたのもこの辺りだっただろうか?
 
 キュルケも再三に渡る失敗の光景に苦笑するしかなかった。何故この娘はこんな事も出来ないのだろう。本当にメイジなのだろうか。ヴァリエール家と言えば代々優秀なメイジを輩出してきたトリステインの名門であったはずなのに、と。
 
 結局ルイズはその授業で一度もフライを成功させる事は無かった。
 ゼロのルイズは成功率ゼロ。彼女は何処までも駄目なメイジでした。授業に参加していた生徒の殆どにとってはそういう話であったはずだ。しかしキュルケにとっては違っていた。

 その日の夜半、気紛れに散策していた彼女がその光景を目にしたのは偶然であったのか、それともヴァリエール家とツェルプストー家の因縁が引き合ったのか。誰も居ない本塔の麓で、一心に杖を振り続けるルイズの姿があった。呪文を唱え、杖を振り-爆発。煤だらけになりながらも、その目には揺ぎ無い意思があった。
 
 キュルケはその姿を見て理解した。
(あの娘は、必ず自分は成功するって思ってるのね)
 瞳に宿る光と行動と、彼女はその二つでそれを示していた。例え幾度となく失敗しようとかならず成功する日は来る。だから諦めずに努力する。己の誇りに恥じぬように、と。そこにあるのは気高さと絶え間なく燃える情熱であった。それがキュルケの心を振るわせた。
 
 彼女の祖国ゲルマニアではメイジだけでは無く平民も貴族となれる。平たく言うと貴族の位を買い上げる事が出来るのである。その事をトリステインの貴族は「金で貴族の位をやりとりする野蛮な行為」と罵るが、見方を変えれば自らの努力を金という客観的な尺度で図り、貴族たるに相応しいと認められるという風にはならないだろうか? 故にゲルマニアの民は皆努力を重ねる。平民は何時か自分も貴族になれると夢みて、貴族は貴族たらんとするが為に。キュルケはそういう祖国の風潮が好きだった。
 
 今眼前に行われている行為はそんな祖国の流儀に合致した実にゲルマニア的なものだと、そうキュルケには感じられた。
 この時から、キュルケにとってルイズは「成功率ゼロの無能なメイジ」ではなく「自分の好敵手となるに相応しい相手」となった。
(頑張りなさいな、ヴァリエール。何時かその努力が実を結んで、あたしと並ぶ事が出来たなら……絶対、相手してあげるから)

 そうして時にからかい、時に見守りながら向かえた昨日、ようやく魔法が成功したと思ったら出てきたのがよりによって本。これは流石にあんまりじゃないかと思わず始祖ブリミルに悪態をついてしまった。
(そろそろご褒美を上げても宜しいんじゃなくて、始祖様? あんまりおあずけばかりさせるのは可哀想でしてよ)
 食前の祈りではもっともっと罵ってやろう、それこそ天に居る始祖に届く位にと密かに誓うキュルケだった。

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by: * 2010/06/18 20:36 * [ 編集] | page top↑

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