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夜天の使い魔 幕間02(30.5話)

 ガリア王国の首都リュティスの東端に位置する、壮麗なるヴェルサルテイル宮殿。その中央で存在を誇示するジョゼフ王の居城グラン・トロワに隠れるように存在する一つの建物があった。薄桃色で形作られた、小さな宮殿。名はプチ・トロワと言う
 その中で、プチ・トロワの主が一人の少女と向かい合っていた。豪奢な椅子に腰かけ、尊大な様子で足組みしながら少女を見下ろす彼女と、頭を垂れ礼を取る少女との様子が、二人の力関係を如実に表していた。
 肩まで伸ばした、美しく靡く青い髪。それは紛れも無くガリア王家所縁の者であるという証であった。平民では一生かかってもその欠片すら買う事が許されぬような高価な宝石で彩られた大きな冠が前髪を持ち上げ、美しく滑らかな額が露わとなっており、細く釣りあがった目と挑発的に歪められた唇によって形作られた表情が、彼女にきつい印象を与えていた。
「ご苦労だったじゃないか、人形娘。もう報告は上がってきている。随分と手際が悪かったようだけれど、まあ良しとしようじゃないか」
 呆れたように言い放つこの宮殿の主こそ、彼女こそ、ガリア王の息女イザベラであった。
 そしてその前に跪く少女、タバサ。
 同じ王族でありながら、何故このような事になっているのか。タバサが既に王族としての権利を剥奪されているというのも確かにあるが、それだけでは無い。形式的にとは言え、今のタバサが仕える主人がこのイザベラであるのだ。
 ガリア王国には様々な騎士団が存在する。南薔薇花壇騎士団、東百合花壇騎士団――その名は全て、ヴェルサルテイル宮殿に存在する花壇を由縁として名を付けられていた。故にヴェルサルテイル宮殿に存在しない花壇の名を持つ騎士団は存在しない。しかし、その前提を唯一覆す騎士団が一つだけ存在していた。
 ――北花壇警護騎士団。ヴェルサルテイル宮殿の北側には花壇が存在しない。だが、彼の騎士団にはその名が付けられている。名がありながら、存在が無い。彼等は表向き存在を抹消された、後ろ暗い仕事を専門に扱う騎士団なのである。
 この北花壇護衛騎士団を纏める者こそがイザベラ王女であり、そしてタバサはその騎士団に所属する騎士であった。
 二人は従姉妹の間柄だ。しかしその心が通う事は一切無い。高圧的に見下ろすイザベラと、頭を垂れたままのタバサ。二人の視線はそのまま両者の関係とその捉え方を示しているようだった。
「次はもう少し気合を入れて仕事をして欲しいもんだね。あんまり王宮の権威に泥を塗らないで欲しいもんだ」
 イザベラの最近のお気に入りなのだろう、喋りながら首より下げられた宝石のペンダントを弄んでいた。過度なまでにけばけばしく飾りこんでいる彼女の装飾品の中で唯一簡素な作りのそれは、その素朴さ故に逆に目を引いた。黒曜石だろうか、暗い色をした石にそのまま鎖が付けられただけの、そんなペンダントだった。
 タバサは人を小馬鹿にしたような物言いに、僅かに違和感を覚えた。このような言葉を放つのは珍しくない。イザベラという少女は、タバサを罵倒するのが――王族としての権利を剥奪されながら、今尚自分よりも人望を集める従姉妹を憎々しく思っているのだ――何より好きなのだから。いつも罵声を浴びせかけ、人を見下し優越感に浸る。それが彼女の性根であったはずだ。しかし今日の言葉は何処か違う。声色から感じるのは矮小な自尊心の色を満たす愉悦では無い。ただ純粋に、当然のようにタバサの手際に失望している。それが少女にとっては、とても不思議な事だった。
 前回の任務を受けたのは今より一月程前、丁度タルブの戦闘があった直後辺りだった。その頃は今までとまったく変わりない様子であったのに、僅か一月という期間でまったくの別人になってしまったように、タバサには感じられた。
 タバサは感じていた。今のイザベラははっきりと自分の方が上であると、そう確信しているに違いないと。
「もう良い下がりな。次からはもう少しマシに働いてくれる事を期待してるよ」
 顔を上げたタバサと、見下ろすイザベラ。その時初めて両者の視線が交錯した。
 イザベラの瞳の奥には、今までには存在しなかった、僅かに燃える炎が隠れ揺らめいていた。


「きゅいきゅい! お姉さま、あの意地悪お姫様にまた意地悪されなかった?」
 シルフィードの気遣う声にも、タバサは返事を返さない。思考に没入し、外界の何もかもを感じていないかのように、彼女は無言で使い魔の背の上に居た。
 彼女は結局、自身の生家に辿り着くまで無言だった。

 屋敷へと辿り着いたタバサは、上空を大きく旋回するように促す。シルフィードは大きく一声嘶くと、己を誇示するように屋敷の空を飛びまわった。これは任務をこなした後に必ず行う儀式のようなものであった。屋敷を守る老僕ペルスランに己の無事を報せ、そして決して自分を見つめる事は無いであろう母へ、祈りを捧げる為の時間だった。
「行こう」
「お姉さま、本当に良いの? 何時も家に入らないで帰っちゃうなんて、なんか変」
「構わない。それに、待たせ過ぎるのも良くない」
 ルイズとキュルケは国境近くの村で馬車と一緒にタバサの帰りを待っている。だから早く行った方が良いと言うのだろう。それでもシルフィードは納得が行かない様子だったが、しぶしぶ言葉に従い、屋敷に背を向ける。
「さよなら、母さま」
 たった一つの呟きを残し、竜は彼方へと飛んでいった。

 飛び去る風竜の姿を、屋敷の一番奥に存在する部屋からペルスランは眺めていた。傍らの寝台に眠るのは、痩せこけたオルレアン夫人。竜の嘶きが聞こえたなら、何をしていようとこの部屋に駆けつけ、空を見る。それは彼にとって決して違えられぬ行動であった。
 大きく緩やかに空を飛ぶ姿を見て、今回もシャルロットが無事生き長らえた事に彼は安堵を覚えた。見送りをした後、こうやって確認をするまでの時間は生き地獄に等しい。物言わぬ姿でこの屋敷に戻ってくるシャルロットの夢を見、悪夢にうなされ目覚める事も決して珍しくは無い。
「奥様、今日もシャルロット様は無事務めを果たされました」
 その声は決して彼女の内へと届く事は無い。しかしそれでも、老僕は決して語りかける事を止めたりはしない。何時の日か必ず、シャルロット様のお気持ちは届くに違いない、そう信じているからだ。
「それでは奥様、ゆっくりお休みなさいませ」
 部屋を後にしようと扉を閉め行くペルスランは、気がつかなかった。
 寝台に横たわるオルレアン夫人が蒼穹をその目に収めていた事も。
 ほんの一滴だけ涙が頬をつたった事も。
 緩やかに奇跡が始まりつつある事も、未だ知る事は無かった。


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コメント
イザベラはミッドチルダ式の魔法を使えるようになったのか。
それとも虚無量産によって虚無の担い手になったのか。

確かにそれならタバサの上をいくことも可能でしょうが、はたして
by: ショウ * 2008/01/02 22:57 * URL [ 編集] | page top↑
今年初交信おめでとうございます

なんかイザベラが妙だな。プレセアがなんか干渉したのかな?奇跡が起こりつつあるタバサ母にも期待。
by: 青鏡 * 2008/01/03 02:40 * URL [ 編集] | page top↑
1から通して読んでました。
GJ!続きが気になります
by: 名無し * 2008/02/18 08:25 * URL [ 編集] | page top↑

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